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マスタード
第4章 運命の出会い
常連さんばかりで一見さんは入りにくい店なのかも知れない。他に行った方がいいかなと思っていると可愛い声で「いらっしゃいまし~」と言われた。
いつの間にか女のコが入り口のところまで歩いて来ていて、にっこり笑って奏を歓迎してくれた。

「あの~、初めてですけどいいですか?」

ちょっと気まずそうに店に入ると、「らっしゃい」と男の店員が威勢よく出迎えてくれた。奏はこの時まではこの男の人が大将だと思っていた。

席に座って、とりあえずビールでも頼もうとすると、奥さんだと思っていた女の店員が「あらっ」と奏の顔を見るなり嬉しそうに笑った。

「奏ちゃん久しぶり~。あたしのこと覚えてる?」と満面の笑顔で言われたので奏は思わずフリーズした。

いきなり奏ちゃんって・・、ボクはこの人のことは知らないし、初対面のはずなのに、何なんだこの人はと思った。しかも旦那さんの前で親しげに奏ちゃんと言ったり、あたしのこと覚えてる?とか言ったりしてヘンな誤解をされて旦那さんが怒り出したらどうしようとビクビクした。

そんなドギマギしている奏の様子を見て女の人は愉快そうに「きゃはは」と笑った。
この雰囲気に初めて会った頃に先輩の先生たちをさしおいて仲良くされてドギマギしている奏を見て愉快そうに笑ったリサの姿が重なった。

「もう、覚えてないんでしょ。まっ、奏ちゃんはリサに夢中だったからね」と女の人は少しふくれ顔をして、また愉快そうに笑った。

頭に思い浮かんだのと絶妙にリンクするようにリサの名前が飛び出したので奏はさらにドキドキした。
リサを知ってるってことはこの人とは『愛』で会ったことがあるのか?リサがいた頃にお店で働いていたのかと考えてみるが、おっしゃるとおりリサしか見ていなかったからさっぱり思い出せない。

「一緒に動物園とか水族館に行ったこともあるんだけどな。あの時は楽しかったわね」と女の人は嬉しそうに言った。

「・・あっ」

動物園や水族館に奏はハッと思い出した。星志を連れてリサとデートした時に、こっちの仕事仲間に誘われた旅行に偽装するためにリサが呼んでくれたあの時の可愛い女のコを連れた夫婦だ。
そういえば確かに『愛』で見たことがある。『愛』で働く仲間を呼んでくれていたのか。

「あたしも奏ちゃんのこと好きだったんだからね。奏ちゃんはリサでいっぱいだったけどね」と女の人はまた笑った。
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