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好きと依存は紙一重
第1章 決意
 ここは京都にある大きな芝居小屋の楽屋。中性的な顔立ちをした青年は鏡の前で紅を引き、化粧を完成させた。
「今日こそは……」
 すっかり白無垢が似合う女性に化けた自分を見つめる。澄んだ瞳は儚い美しさの中に、強い意志が感じられる。
 彼の名前は大槻連。日本舞踊を代々続けてきた由緒正しい家に生まれ、物心つく前から、厳しい稽古を続けている。幼い頃から女形を演じ続け、20歳になった今では「若手の女形と言えば大槻連」と言われるほどの実力を持つ。

「連さん、そろそろ」
「はい」
 付き人に声をかけられ、緊張でピリピリしている舞台裏へ行く。慣れた連はピリついた空気を気にすることなく、自分の出番をじっと待った。
 あと5秒で連の出番というところで、彼は小さく息を吐いた。瞬間、連がまとっていた空気が変わる。ダウナーな雰囲気が消え、凛とした美しさと切なさを放つ。

「妄執の雲、晴やらぬ朧夜の恋に迷いし我が心」
 置き唄が聞こえると蛇の目傘を開いて舞台装置の上に乗り、三味線の音に合わせて舞台上に姿を現した。雪が降る柳の木の下で舞う。悲しみと苦悩が滲む舞は、見ているだけで胸が締め付けられる。
「吹けども傘に雪もって、積もる思いは泡雪の、消えて果敢なき、恋路とや」
 強くなっていく雪の中、絹張りの透けて見える蛇の目傘を差したまま空を見上げると、鐘が響く。笛の音色に合わせ、足と首を少し動かし、鷺の所作。頭のてっぺんから足の指先まで神経を張り巡らせ、鷺になりきる。

 今回の演目は鷺娘。人間に恋をした鷺が道ならぬ恋に苦悩し、最後は遂げられぬ恋にもがき苦しみ、雪の中で息絶えるという悲しい話だ。
 連は女心を見事に体現し、観客達の涙を誘う。演目が終わると、観客達はすすり泣きながら盛大な拍手を送った。
(ここまで手応えがあったのは初めてどすなぁ。これだけ盛り上がったんやさかい、今回こそ、父上も……)
 歓声を浴びながら、父の顔を思い浮かべる。連の父親はいつも厳しく、演目がどんなに盛り上がっても、褒めてくれたことは1度もない。それどころか、厳しい言葉をなげかけてばかりだ。
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