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好きと依存は紙一重
第1章 決意
 彼は自分が褒めないだけでなく、周りにも連を褒めないように言い聞かせている。そのせいで、連は同業者から褒められたことがない。
 観客達に褒められても、「素人の意見など宛にするな。お前はまだ未熟だ」と言って、連に向けられた温かい言葉を壊してしまう。

(これで褒められへんのなら、さよならどす)
 期待と不安が入り混じった気持ちを抱えながら、父の元へ行く。父は楽屋の前で腕を組み、難しい顔をしている。普通の人なら近寄らないだろうが、彼の仏頂面に慣れている連は、父の前に立つ。
「父上、今日の演目はどうどしたか?」
 連が微笑みながら父を見上げると、彼は氷のように冷たい目で連を見下ろした。
「ええ加減学んだらどうだ? 素人をごまかすことはできても、わしをごまかすことはできひん。お前の演技はまだまだや。もっと精進しろ」
 呆れ返ったように言い放つと、父は背を向けてすたすたと去っていった。

「なら、うちはいらへんのやろう?」
 連の淋しげな呟きが、静かな楽屋前の廊下でいやに大きく聞こえた。自分の楽屋に入って荷物をまとめると、挨拶もそこそこに、誰よりも早く家に帰った。
「急がな……」
 家についた連は桐箪笥の1番下の引き出しを開けた。真っ黒なレザージャケットとレザーパンツ、そして金髪のウィッグと、日本舞踊家とは無縁なものが入っている。
 連は急いでそれらに着替え、襟足の長い金髪のウィッグをかぶると、レザージャケットのポケットに入れていた黒マスクをする。

 押入れの襖を開けると、中には真っ黒なリュックサックとスーツケースをひっぱり出すと、急いで玄関に行く。靴箱の1番上からこっそり買っておいた黒いブーツをひっぱり出して履くと、リュックサックからスタッツのついた黒いハンチング帽と出してかぶった。
 全身黒ずくめに金髪になった連は、日本舞踊家というよりは不審者だ。不審者姿になった連は、寒空の中、駅へ向かった。
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