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泥に咲く蓮
第1章 夏の蕾
窓の外は薄い青空が広がっていて、もこもこと入道雲が二つ、三つと連なっている。
遠くで鳴いている、重なって聞こえるセミの声。

気だるげに頬杖をついてカチカチとシャープペンシルの芯を出したりへこましたりしながら、梨花はため息をついた。
昼食後の授業はいつも眠くなる。
窓際の後列から2番目という、気楽な座席位置もまた拍車をかけているのだろう。

教師が説明しながら要点などを黒板に書き綴っているが、ノートを録る気にならず、ぼんやりと窓の外に視線を移す。
誰もいないグラウンドに小鳥が数羽降り立ち、すぐに飛び去っていった。

わたしもあんなふうに飛べたらいいのに…。

小鳥達の影が見えなくなるまで、梨花は羨望の眼差しで見送った。

じっとりと湿度を含んだ暑い風が吹き、やんだ途端に汗が吹き出しそうになる。
梨花はノートから下敷きを抜き取って、セミロングの髪をまとめて片側に寄せた。
団扇がわりにそっと扇ぐと、うなじに柔らかい風が差し込む。

俯きがちに傾げた首から、癖のない艶やかな髪がさらりと踊った。
その表情や仕草は、十八才の少女のそれとは違っていた。

「三崎さんてさ、すごく大人っぽいよね」
春、三年生のクラス替え後すぐに女子の二人組から声をかけられた。
三崎は梨花の名字である。

「一年の時から三崎さんの事知ってたけど、なんだか話しかけづらかったの。ほら、私達より超オトナって感じで」
ショートヘアの快活そうな少女が無遠慮に捲し立てる。

「そうなのかな…自分ではわかんないけど、言われるかも」
一瞬面喰らったが、当たり障りないよう笑顔で答えた。

高校入学後はグループに入るでもなく、特定につるむ友達もいない梨花だったが、こんなふうに声をかけられたのは初めてではなかった。

あいにくと小学校・中学校で仲のよかった幼馴染み達に同じ高校を受験する者がいず、梨花は一人でこの学校に入学した。

新しく友達ができるかと思っていたが甘かった。
なぜか距離ができるのだ。

同級生達が梨花を敬遠する理由は、梨花が年齢にそぐわないほどおとなしいからというだけではない。

すらりと伸びた細い手足に、服の上からでもわかる豊かなバスト。
整った目鼻立ちは艶っぽく、女子高生には不似合いなほど扇情的な容姿をしていたからだ。



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