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夏の終わりに
第20章 安息 ③
赤く熟した果実から漂う甘い香りが鼻腔をくすぐり、浩人が吐きだした息に反応してヒクリヒクリと蠢いている。

興奮に突き動かされて尖らせた舌が、割れ目の中に触れる。その瞬間に、浩人は慌てて顔を離した。

ぎゅっと目を閉じて顔を逸らしている千里は、浩人が何をしようとしていたのか気づいていない。そのはずなのに、必死に首を振り始めたのだ。

「ご……っ」

慌てて謝ろうとして首を振っている理由に思い当たり、浩人は全身の強張りを緩めた。

千里がどこまでされたのか気になっているくせに、誘惑に意識を持っていかれて尋ねたことも忘れていたとは情けない。

「……良かった」

心底そう思っているのに、その声は酷くぎこちなかった。

悪事を働こうとしていた疚しさから逃げるように、浩人はそっと千里から離れた。
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