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BeLoved.
第23章 【これからのはなし】
「よし…っと」
西陽が差し込む時刻。わたしは夕食の準備に勤しんでいた。ようやく完成。火を止めお鍋の蓋を閉め、ちらりと『そちら』に目線をやる。
目線の先はリビングのソファ。こちらに背を向けて腰掛け、携帯を操作しているのは…流星さまだ。
珍しくこの時間に在宅している彼は、現在すこぶるご機嫌が悪い。背中からでもそれが伝わってくる…
「ど、どうかされたんですかっ?」
怖かったけど、部屋全体に張り詰めるこの緊張感の方が辛い。それに、もしもわたしが原因だったら謝らなくちゃ。
ダイニングテーブルに副菜であるサラダを並べたあと、彼の真横まで近づき意を決して声をかけてみた。
「なにが?別に普通だけど」
「…そうですか…」
声色が普通じゃないです。
殺気だっているのがハッキリ伝わってきます。彼の目線は手元の携帯。こちらを見ようともしない。普段ならそんなことはないのに。やっぱりわたし、何かしてしまったんだろうか…。
──────────
「は?何で謝んの?」
ようやくこちらを向いてくれた彼は眉間を寄せた険しい表情。返された言葉は疑問だった。
「も…もしかしてわたし、何か粗相を…」
「違げーよ!…会社でちょっとあったの」
「会社で?」
自分が原因というわけでなくて、とりあえず安心はした。それでもお仕事のモヤモヤを持ち帰ってくるなんて、彼にしては珍しい。余程のことがあったんだろうか…。差し出がましいのは承知の上だったけど尋ねてみた。
「新入社員の女がやらかしたの。社外秘文書が入り込んだ自撮り写真、SNSにアップしたんだよ。しかも業務中だぜ?ありえねーだろ」
深い溜息と苦い表情。投稿はすぐに削除され、幸い文書も研修用のもの。大事にはならなかったらしいけど…。
仮にこれが顧客情報だったら「即、謝罪会見。最悪会社潰れてた」そうだ。
「た、大変でした…ね」
「だから自分にムカついてたの」
驚いた。彼はその新入社員にではなく、自分に憤っていたのだ。人を育てる難しさ。それ以上に自分の至らなさを今、痛感していると。
それであの表情と雰囲気。普段が普段だけに(ごめんなさい)失念しがちだけど、流星さま本当は真面目な人なんだよね…。
スケールが違いすぎるかもだけど…自分の至らなさを責めるのは今のわたしも全く同じ。理由はもちろん昨夜の事だ。