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第24章 【彼が一番食べたかったもの】

「未結は今日、何か予定ある?」

ダイニングでの朝のひととき。今日も今日とて朝食からたくさん食べてくれた麗さまは箸を置くと、脇に立つわたしを見上げながら問いかけてきた。

「予定、ですか?…」

食後のお茶をお出しし、そのままお盆を胸に抱えて考える。この後は洗いものをして、お洗濯をして、お掃除をして。いつも通りの家政婦業が待っている。
ああ、そういえば葉物野菜が切れたんだった。買物には行きます。そう答えた。

「それ、行かなくていいよ。家に居て」
「え?」
「今日はずっと一緒にいるの」
「…!」
「俺の日だもん。離さないよ」

きれいな笑みにそぐわない言葉と力強い語気を残し、麗さまはダイニングを後にした。

離さない…?立ち尽くし閉められたドアを呆然と見つめていると、左斜め下から忌々しげな呟きが。

「──俺まだ居んだけど?」
「…あ」

もちろん、流星さまだ。

「なにが"露骨なの嫌い"だよ。丸出しじゃん」

悪態と不機嫌オーラが痛いほど突き刺さってくる。もうじき出勤時間だけど、まさか『気乗りしないから行かねー』なんて言い出すんじゃ…

「ねーよ!休めねーし」
「ですよね…」

抱いた一抹の不安はバカかと一蹴された。

昨日彼の会社で、あわや社の存続さえ危うくさせかねない情報漏洩事故が起きた。
当日中に始末はつけたものの、後処理や、他従業員への再発防止研修等を本来の業務に加え実施せざるを得ない状態。
長たる彼に『欠勤』という選択肢はないのだ。


「だからわざわざあんな宣言したんだよ。麗」

舌打ち、そして「うぜぇ」と吐き捨てるような呟き。席を立った彼は上着を着込みながら歩き出した。…お出掛けだ!

「見送りいい」
「でも…」
「来ないで」

その一言は追いかける足をすくませるには十分だった。…苛立っている。それも、かなり。

「いってらっしゃいませ…」

彼の背にかけたその声に返事はなかった。

一人になったダイニング。給湯器が稼働した音が微かに耳に届いた。…麗さまはシャワーを浴び始めたようだ。

「……」

『俺の日だもん』『離さないよ』

胸がきゅっときつくなった。

わたしは今日、思い知ることになる。
二人のものになるという本当の意味。そして
麗さまは流星さまより強引なんだってことを。
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