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BeLoved.
第32章 【白い檻】
「(…重い…)」
階が進むにつれて、買い物袋の持ち手が指に食い込む。まるで一段上がる毎に重さが増していくみたいだ。…そんなわけないけど。
「ふぅ…」
やっとのことで6階と7階の間までたどり着いたけど…もうだめ。あとちょっとだけど一旦休憩しよう。
踊り場の床に袋を置き、上へ続く階段の一番下の段に腰を下ろした。
こうなってたんだ…。周りをぐるりと見渡す。ここに住み始めてから階段を使うのはこれが初めてだった。
このマンションには建物内にある内階段と、外に設置された非常階段とがある。
わたしがいるのは内階段。エントランス同様に、壁はコンクリ造り。踊り場つきで、畳一枚分位の幅なのに狭さも圧迫感も感じない。白に近いグレーをしているせいかな。
窓は高い位置にある横長の滑り出し。磨りガラスのそこからは柔らかな光が降り注いでいた。
「……」
本当にこの建物はどこもかしこも無駄がなくて、洗練された造りをしてる。…まるで『彼』そのものみたい。わたしがここに住んでいること自体が、彼に囚われていることを象徴しているみたいだ。
…ん~…何を言ってるんだろう。おかしなことを考え始めた頭を左右にブンブンと振った。
「…あ」
ふと目に留まった床に置いた買い物袋。そこから覗いたものは…久々に食べたくなり、おやつにしようと思って買ったアイス。
カップ入りのそれは、チョコミント味。大好きなんだけど、流星さまは『歯磨き粉食ってるみてー』だから好かん。って言ってたな。…彼はどうだろう。
…そんな事考えてる場合じゃない!陽の光がもろに当たってる!慌てて袋から取り出したカップはわたしの手の中でくにゃりと形を変えた。
「あーあ…」
半溶けになってる。おうちに着く頃にはどろどろだ。本当に、今日はどこまでついていないんだろう…。再び階段に腰を下ろし、ため息をついたその時だった。
「──未結?」
「!」
階上から声をかけられた。振り返り見上げた先には…麗さまがいた。
「どうしたの」
心なしか慌てた様子で駆け降りてきた彼は、わたしの横にしゃがみこむと、顔を覗き込んできた。具合が悪いのかと。
「ちが…ちょっと…疲れちゃって…」
「…そう?ならいいんだけど」
ふっ…と彼の表情が緩む。安堵してくれたんだ。でもそれは束の間。床の買い物袋に気付いた彼は眉をひそめた。
「なに?この荷物」