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BeLoved.
第3章 【契約成立】

「意味、分かるよな?」


彼らの言葉がただただ耳を通り抜ける。

なに?何なの?何が起こっているの?
わたしを家政婦としてだけでなく、女としても必要?

どちらのことも選べないなら
二人のそばにいろと?

『女としても必要』その意味。
いくらわたしだって、わかる。

そんなこと、許されるの?

…でも…

彼らのもとを去ってから。
彼らのことを忘れたことなんてなかった。

お勤めしていた頃の夢も、何度も見た。
彼らのことを思い出して、恋しくて泣いたことも、一度や二度じゃない。
ずっと、自分の『本当の気持ち』を見ないようにしていた。


「…馬鹿な話だからね。断ってくれていいから」
「…!」

──ここで誤ったら、わたしは今度こそ本当に彼らを失う。
──そうしたら、わたしは今度こそ本当にひとりぼっちだ。


……いやだ。


「……待ってください……」


震える唇から言葉が漏れていく。

「…っ、…………お受け…します」

その言葉に、彼らは一瞬だけ目を合わせた。

「──じゃあ、ここに」

張り詰めた空気が、少しだけ緩んだ気がする。
差し出されたペンを受け取り、手が震えそうになるのを堪えながら署名した。
自分の名前を書くのにこんなに緊張することは、多分もう無いだろう…。捺印も、ぶれないように細心の注意を払った。

「ありがとう。…お預かりします」

麗さまはわたしから受け取った契約書を封筒に戻すと、礼服の内ポケットに仕舞い込んだ。


「じゃ、改めて挨拶しよーぜ、麗」
「挨拶…?誰に…」
「おばあ様に」

二人は祭壇の方を向き直ると、服を整え正座し直し「朝比奈さん」と声を揃えた。

「未結さんお預かりさせて頂きます。大切にします」

『大切にします』その言葉の重みを知るのは、もっとずっと先の話。

果たしてわたしは仕事と住居。
嘘のようだけど両方を手に入れた。

そのうえ、彼らまで……

遺影に向かい深々と下げていた頭をゆっくりと上げ、こちらを向き直った彼ら。
わたしの…言うならば、ご主人様たち。

今度はわたしがきちんと座り直し、手をついて頭を下げた。

「…誠心誠意、お勤めします。どうぞ宜しくお願いします…流星さま、麗さま」

ふたつの静かな声が、頭の上から聞こえる。

「うん。宜しくな、未結」
「今度はどこにも行かないでね」
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