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第6章 【家政婦ですから】

「ふう……」

話が済んだあと、麗さまはすぐ出掛けていった。玄関までお見送りしたあと、わたしは重い足取りでダイニングに戻る。
エプロンのポケットには通帳が二冊。…どこにしまっておこう。布の上からそっと撫でた。

「……」

気持ちは暗い。わたしがこれを管理するんだ。
一人になった途端、急に実感が襲い掛かってきた。怖い。それに……

「違いすぎるよ…」

今しがた、わたし名義の通帳を確認してみたが…絶句した。お二人から入金されていた額が尋常ではなかったのだ。
給与としての額を引いたとしても、わたしには到底用意できない金額が残る。
彼らはこの金額を毎月用意できるのだ。

数字の威力は絶大だった。
住んでいる世界の違いを、こんなに具体的に。まざまざと思い知らされてしまった。

彼らのことを好きになり、あまつさえどちらのことも選べない、だなんて。身の程知らずにも程がある。

そもそも彼らに好意を寄せること自体、おこがましかったのだ。
こんな、身寄りも学も華もないわたしが。

酷かもしれない。
でもそれが現実なのだ。
今さら気が付くなんて。

そのままぺたりと床に座り込み、俯く。
ああ、馬鹿みたい。自責の念に苛まれた。

──でも、それでも。

彼らは『わたし』を好きだと言ってくれた。
『どこにも行かないで』そう言ってくれた。

「……」

彼らのもとにお仕えしてわかったこと。

彼らは心にもないことは言わない。
彼らは常に自分の気持ちに正直だ。

だからわたしは彼らの言葉を
信じることができたんだ。

わたしも彼らが、好き。
わたしも彼らといたい。

『仕事なんだから』

そうだ。

わたしが彼らのそばにいられる『理由』。
彼らはそれも作ってくれたのだ。

『家政婦だから』それがすべての理由になる。
『家政婦だから』主の命令に従う理由になる。

だからわたしは、精一杯
自分にできることをすればいいんだ。

ご主人様である彼らから命じられれば
どんなことでもする。どんなことでも。

彼らは疲れきって帰ってくる。
お家の中はいつもきれいにして
いつも笑顔でお出迎えをしよう
おいしいご飯もたくさん作ろう。

彼らにとってどこよりも
おうちが安らぐ場所になるよう。
誠心誠意お勤めさせて頂きます。

だってわたしは、家政婦ですから。
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