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第6章 【家政婦ですから】
「…なに?何か変?」
ひとりで騒ぐわたしに、麗さまからは怪訝な表情が向けられる。
「いやっ、あのっ、えっと…お、多すぎるな…って…」
「そう?勤務内容の平均給与額に、能力給足した金額掛ける俺と流星の2軒分。妥当な金額だよ。それだけの仕事なんだから」
『仕事なんだから』
その言葉がなぜか胸をついた。
そう。わたしは『家政婦』。
それ以上でもそれ以下でもない。
そんなの当たり前じゃない。
現に今だって、彼がしているのは仕事には欠かせない『報酬』の話だ。
なのに、このざわつきは何だろう?
言い様のない感情が涌き出てくる。
それを圧し殺さんと、わたしは俯いた。
「俺が決めたんだからそれでいいの。…未結?」
頭の上から声がする。
「どうしたの。大丈夫?」
「……あ…、っ、…ごめんなさい、ちょっと…あの、びっくりしちゃって」
いけない、心配させてしまった。
顔をあげて慌てて謝罪し、笑顔を見せた。安堵してくれたのか麗さまは眼鏡の位置を直すと「続けるよ」と断りを入れ、左側の通帳を指差した。こちらの名義は…流星さまだ?
「…でね、これは流星から預かったもの。本人『管理すんの面倒くせーから未結に預けとくわ。好きに使っていーよ』だって」
「うええぇっ?!」
奇声をあげるのはいったい何回目だろうか。
面倒臭いって流星さま…。あまりにも彼らしい言葉に脱力した。
……いいの?感覚の違いに目眩を覚えてしまう。
万が一落としたら?盗まれたら?想像しただけで寒気がした。
流星さまは怖くないのかな。
「それだけ未結のこと信頼してるんだろうけど…困るよね?俺からボンクラに言おうか」
「……」
すぐ顔に出てしまうのがわたしの悪い癖だ。
あっさり見抜かれ、そんな助け舟を出された。
はい、その通りです。 困るというより、怖いです。
ちら、と目をやる。
表紙に印字された『有栖川流星 様』。
中身を確認するのは、今はやめておこう。
本当に倒れてしまいそうだから。
『できません、ご自分でお持ち下さい』
って返したら、きっとご機嫌損ねちゃう、よね…。
「い、いえ…わたし、します…」
「──そう?じゃあ、宜しくお願いします」
麗さまは最後に小さく頭を下げ、席を立った。