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BeLoved.
第43章 【彼の根底にあるもの。1】
…とうさん。 …お父さん?!
お二人の言葉に目を見張った。
そこに横たわっていたのは、初老の男性。
何処か一点を見つめている、半開きの目。口から鼻にかけて充てられた酸素マスク。髪は白髪混じりで肌は土気色。…ベッドの周りに置かれた機械から伸びた何本ものチューブが、体の至るところに繋がれている。
声をかけられても、何の反応も見られない。…素人のわたしでも、一目で植物状態なのだとわかった。
「熱あんだって?」
「ごめんね仕事中に。でももう落ち着いたよ。──あ、未結ちゃんは初めてだね。紹介します。僕たちのお父さん、有栖川流一朗(りゅういちろう)さんだよ」
椎名さまが教えてくれた。…この方が、流星さまの…というか、流星さま『たち』のお父さま。
「未結ちゃんの事も紹介しないとね。──お父さん、この方、朝比奈未結さん。流星の大事な子ですよ」
大事な子。わたしはその言葉に胸を突かれ息を飲んだけれど、お父さまは…予想通り無反応だった。ただ酸素を送るチューブから規則正しい機械音が続くだけだ。
「そっくりでしょう?僕らに」
椎名さまが苦笑混じりに言う。失礼だと承知の上で表情のないお顔をまじまじと見つめてしまったけれど…目の位置、鼻の高さ、唇の形。確かに色濃く子供たちに受け継がれていた。
「母親違うのに俺と椎名ほとんど同じ顔だしね。親父の遺伝子強すぎ。ゴキブリ並みだわ」
「!ちょっ…りりり流」
「ははっ!流星~ほんとそれ。この通りなかなか死なないしね」
「……」
何も言えなくて。気まずさとはまた違った空気が漂う室内に、突如着信音が鳴り響いた。
「…あー悪りぃ、未結。ちょっと待ってて」
流星さまの携帯だった。取り出したそれの画面を一瞥した彼は、足早に部屋を後にしていった。残されたわたしは椎名さまに促されるままその隣に腰を下ろしたけど…やはり視線はお父さまに落ちてしまう。
「お父さんね、2年前に倒れてからずっとこの状態」
それに気付いてか椎名さまは教えてくれた。本当に急だったこと、全く前触れなかったこと、その後会社を引き継いだ流星さまが如何に大変だったかということ。そして──こうなる前のお父さまのこと。
「ほんと、この人は絵に描いたような"俺様"だったよ」