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BeLoved.
第43章 【彼の根底にあるもの。1】
30分くらい走っただろうか。
景色は段々と、閑静な高級住宅街へ変わっていった。やがて辿り着いた、一際立派な日本家屋。シャッターで閉じられたインナーガレージ前に、車は停められた。
「わあ…」
懐かしい…思わず呟いていた。ここはわたしが家政婦になって初めて派遣された先。…流星さまと出会った場所だ。あの頃はこんな関係になるなんて、夢にも思わなかったな…
「そこが麗んち。知ってたっけ?」
指差された先はお向かい。初耳だった。
三階建てで、外国のおうちみたいなお屋敷。玄関外のお掃除をする度に、すごいな、すてきだな、と思っていたんだけど…表札も出てなかったし、まさか麗さまのご実家だったなんて知らなかった。
「ガラス割って入ってみる?」
「なななっ、何言ってるんで」
「今誰も居…あー、麗ママ居たわ。行こ」
相変わらずの物言いで、彼は車をガレージ内に停めた。
───────
「お…おじゃまします…」
果たしてその挨拶は適切だったかどうかわからない。ガレージ奥の引き戸から中に入り、迷路みたいな廊下を歩いた先。…確かこのお部屋は…
「椎名ー、いる?俺。流星ー」
お勤めしている時、わたしは入ることを許されなかった場所だ。流星さまは閉じられた襖をノックしながら声をかけた。
程なくして静かに開かれた襖。現れたのは椎名さま。流星さまの6歳上の異母兄だ。
「流ちゃんおかえりー。あれ、可愛い子がいる」
椎名さまは流星さまの背後にいたわたしに気付くと、一瞬驚いた顔をした。けれどすぐに笑顔を向けてくれた。…流星さまと瓜二つな笑顔を。
「嬉しいな。有難うね、来てくれて」
「こ…こんにちは、お久しぶりで…」
「未結ほら、手出して」
流星さまに言われるまま差し出した手に、消毒用のスプレーが噴射された。彼も自分の手に同じようにしている。…病気の方がいるのかな?今日はお見舞い?なら手土産を持ってくるべきだった…。
思いを巡らせつつ、二人について更に奥にある部屋へと足を踏み入れた。
…アルコールと、何とも言えぬ独特の匂いが鼻をつく。
辿り着いた部屋の中央に置かれていたのは、医療用の大きなベッド。
椎名さまと流星さまは足を進め、ベッドを挟むようにして両側に立つと、サークルに手を添えて覗き込むように身を屈めながら静かに声をかけた。
「お父さん、流星ですよ」
「ただいま、父さん」