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第43章 【彼の根底にあるもの。1】

「信じらんねーかもだけど。俺、これの存在忘れてたのよ」
「……」
「"これ"の存在はね」

トン、と指先で写真を示しながら。彼は語り始めた。

「で、今朝。麗にこれ見せられて言われたの。"まだ引きずってんのか" "まさか未結と重ねてんのか"って」
「……」
「正直さ、重ねて見たことないっつったら嘘になんのよ。図星突かれてムカついたの」

判明した今朝の諍いの理由。嘘をつかない、いや、嘘をつけない彼らしい口気だった。

「俺の本心はさっき車ん中で話した通り…だけど、気付いちゃったんだよ。完全に吹っ切れてはなかったんだ って。そんな自分に一番ムカついたわけ」
「!だってそれは…っ!別れ方が…、別れ方だから…っ」
「だからさ。これ、未結にやるよ」

好きにして、と短い言葉を最後に彼は手を離した。

目の前のそれをただただ眺めたわたしは…思った。


これは、流星さまが…きっと、わたしよりも愛した人が生きていた、証。それは彼と…幸さんだけのもの。

だから、告げた。「貴方が持っていて下さい」と。


「あ、いらない?…じゃ、こーすっか」
「…え?!」

何をするかと思えば。彼はライターを手にテーブルの隅にあった灰皿を引き寄せると、その上で──写真に火をつけたのだ。
瞬く間に燃え上がったそれは灰皿内に落ち、程なくして…灰になった。

あまりの展開に開いた口が塞がらないわたしに、流星さまは普段通りの口調で続けた。

「よくよく思い出したらさ、これ取っといたのも心霊写真じゃねー写真(やつ)なんて珍しくてだったんだよ。だから未練ない」
「だだだ、だからって…!」
「俺もう寝床以外で未結泣かせたくねーから」
「……」

真っ直ぐで鋭くて正直な瞳がわたしを射抜く。
わたしだけを見つめてくれる……漆黒の瞳が。

「…なんでテメーはそう極端なんだ、流星」
「仕方ねーじゃん。俺だよ?」


そう、どんな時でも彼は彼。──ねえ、幸さん。


わたし、あなたと同じくらい流星さまが好きです。
触れたいし触れられたい。愛されたいし…愛したい。

だからわたしの携帯にはあなた達の姿を残します。
だってあれは、あなたと彼だけの『聖域』だから。


そしてわたしが、あなたには永遠に勝てないんだって
忘れないように。
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