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BeLoved.
第8章 【男と暮らすということ】

「やっと来た」

意を決して浴室内に足を踏み入れたわたしにかけられたのは、お湯でもシャワーでもない。呆れ声だった。

浴室も白を基調とした広い空間。冷えない工夫がされている床は、足の裏からほんわかしたあたたかさが伝わってくる。
極めつけは浴槽だ。今は乳白色のお湯で満たされているそれは、長身の彼が浸かっても脚を十分に伸ばせる大きさ。…お掃除がちょっと大変なのは、内緒。

「遅せーから心配したわ」

流星さまは自分の顔にかけたお湯を、掌で拭いながら言った。その口調はけして苛立ってはいない。
ただ、彼は待たされるのが大嫌い。と言うよりも、時間を無駄にしたくない人なのだ。それは彼が常に多忙なゆえのこと。しどろもどろになりつつ謝罪した。

「いやいーんだけど。それより未結おまえ、何これ」

彼の視線の先は…わたしの体に巻かれたバスタオル。湯船の縁まで身を寄せてきた彼は手を伸ばし、その裾を摘まんでひらひらと動かした。

「ちょ…っ、やめてください…」
「いらねーだろこんなん。取れ」
「……」

彼は雇用主…、…ご主人様の一人だ。
命じられては逆らうわけにはいかない。

室内に立ち込める湯気が多少の目隠しになってくれることを期待しながら、おずおずとタオルを外した。
しかし。畳んだそれを洗面所に戻しにいったことが換気の役割を果たしてしまい、浴室の湯気は期待と共に消えてしまった。

「だから隠すなって。何回言わせんだよ」
「…す、すみません…」

片腕で胸、もう片手で…下を隠していたんだけど。それも咎められてしまった。
覆い隠すものが何もなくなった肌は、鮮明な視界のもと彼の眼前に晒される。男の人の前で裸になるなんて、生まれて初めてだ…

「……」

彼は湯船の縁に頬杖をついたまま、まっすぐこちらを見上げてくる。口元は掌で押さえられているから、見えるのは鼻から上だけだ。それが余計に彼の持つ鋭い眼光を際立たせ、わたしに『見られている』ことをより意識させた。

…だめだ。

あまりの羞恥心に膝の力が抜け、浴槽にもたれ掛かるように崩れ落ちてしまった。

「何やってんだよ。大丈夫か?」
「だ大丈夫じゃないです…恥ずかしすぎて…」
「なんで?すげー綺麗だよ」

助け起こしてくれながら、彼は優しく笑った。

「ま、もーちょい肉付きいい方が俺好みかな。特に胸」

…余計な一言を忘れずに。
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