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BeLoved.
第45章 【彼女の根底にあるもの。】
「うわぁ…」
公衆の面前ということも忘れそんな声を漏らしてしまうほど、そこに印字された数字は(わたしには)ものすごい。
今日はお給料日。お買い物ついでに銀行に寄って、記帳するのが毎月の習慣。
予め給与明細で額は把握してはいるものの、やはり息を飲んでしまう。まあそれはさておき…ほとんど使わないから、貯まる一方なのだ。
この暮らしを始めて、一年。それ以前の残高とは恐ろしいほどの差がついてる。(先月なんか行員さんから、投資話を持ちかけられたほどだ。相談したら『バカ言ってんじゃない』と麗さまに一蹴されたけど)。
…とにかく、こんなに頂いてしまっていいのか。一年前に抱いた疑問が、ここに来てまた首をもたげていた。
───────
「おまえまだそんなこと言ってんの?」
夜。ご主人様のひとりからは、呆れた声が返ってきた。
「そんなことって…流星さま…」
予想はしていたけど、話さずにはいられなかった。何故なら、彼の名前で振り込まれる額が、一年前に提示されたものより確実に増えていっていたから。
「あー、税金高くついた?今年麗に確定申告させたんだっけ?ったく野郎相変わらず詰めが甘」
「ちちちちがいます!」
話が逸れる前に軌道修正。ただわたしが、そのお給金に見合った仕事をしているかが不安だと伝えた…ら。
「あのさ」
──彼の瞳が変わった。いつもの明朗さも飄々しさもない、彼本来の鋭いものに。気に障ってしまったかと身が竦んだけど…それは間違い。
「この際だから言っとくわ。俺がおまえに遺してやれるものって、ぶっちゃけ金くらいしかねーのよ」
「…流星さま?」
「かと言って赤の他人だから生命保険金の受取人にもなれねーし。だから給与って形で渡してるわけ」
彼がその瞳をするのは…本気の時。自分の本心を伝えたい時。そしてそれは、わたしを捕らえて離さない。
「人間いつ何が起こるか分かんねーんだしさ」
「……」
「それは俺とおまえが一番わかってる筈だよ」
…確かにわたしは経験してる。予想も覚悟も全くしてなかった、突然の別れを。そしてそれは彼も同じ。つらいけど仕方の無いこと。しかしそんな感傷にも浸る暇なく、彼は更に言葉を続ける。
「あとこの部屋もおまえのものだから」