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BeLoved.
第45章 【彼女の根底にあるもの。】
そう、そうだったよね。思い出した。
父には家庭があったこと。
母は不倫相手だったこと。
父を繋ぎ止めておきたいが為に
妊娠した本妻に張り合うが為に
母がわたしを身ごもったこと。
父は産まれたばかりの赤ん坊の写真を母に見せ
幸せそうに、ぬけぬけと言い放ったという。
『娘さ、実結ってつけたんだよ』
ふたりの愛が結ばれ実った子供で、実結。
母は自分の心が壊れた音を聞いたそうだ。
本妻との娘が誕生した数ヶ月後に生まれたわたしを
母は迷わず『未結』と名付けた。
それは
自分のものにならない父への、せめてもの当てつけ。
同じ読みでも、意味合いはまったく正反対。
愛しても、未だに結ばれないふたりの子供。
ね、お母さん。あなたが教えてくれたのよね。
部屋を訪れた父が『家族』のもとに帰るたび。
「もう来ないから」
──結局父は、わたしたちを選ばなかった。
母がどんなに泣き喚いても、縋りついても。
だってわたしたちは、父にとってはもう
『いらないもの』になってしまったから。
母の最後の叫びが、虚しく響いたんだった。
「待って…、ねえ、橙也くん!」
───────
経路は覚えていないけど、その後わたしは保護された。
そして引き取られたおばあちゃんの元で、たくさん愛情を注がれた。
『未来で愛する人と結ばれるように』
だからおまえは『未結』になったんだよ。
そう言い続けてくれた。
そのおかげで忘れていられたのに。
幸せな記憶で上書きしてくれたおかげで
思い出すことなんかなかったのに。