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BeLoved.
第45章 【彼女の根底にあるもの。】
お母さん。
物心ついた頃、わたしは母親と2人で暮らしていた。
伏し目がちで、控えめで、大人しかった母。
大好きだった。好かれる為なら何でもした。
父親は不在がちで、顔はよく覚えていない。
でもとても優しかった。帰るたびに服やおもちゃをおみやげにくれて、大きな暖かい手で頭を撫でてくれた。
『また来るからね、未結』
お別れは決まってその言葉。淋しかったけど、楽しみな気持ちの方が強くて。帰りが待ち遠しかった。
でも、あの日のお別れの言葉だけは違くて。
『もう来ないからね、未結』
頭を撫でるどころか一瞥もせず父は去った。
そしてその言葉通り、二度と帰らなかった。
それから母は変わった。
ほとんどわたしに構わなくなった。
それどころか、視界にも入れてくれなくなった。
『いい子にしてるのよ、未結』
やっとわたしを『見て』くれたあの日。
母は無表情でそう言いつけて。
わたしを独り部屋に残し、何処かへ消えた。
言いつけを守って、ずっといい子にしていた。
怖いのも淋しいのも我慢して、独りでずっと。
『はやく帰ってきますように』って。そして
『好きになってくれますように』って
一枚一枚願いを込めて、お母さんの顔を描いたんだ。
でもね、本当はわかってたんだ。
「いい子にしてるのよ」って言った後、
お母さんは小さい声で言ったの。
「もう、要らない」って。
わかってたんだ。
母にとってわたしはもう、邪魔なだけで
簡単に捨てられる存在になったんだって。