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BeLoved.
第9章 【Master Bedroom. 1 】
「俺明日オフだから、朝一回、昼一回、夜二回な。誰にも文句なんか言わせねーよ。俺の日だもん」
「いやっ…さ…さすがに無理です…」
初めての夜を終えて迎えた、初めての朝。
普段着に着替えるわたしの目の前。フルオーダースーツに身を包み、目元にはフレームなし眼鏡をかけ、髪はオールバック。すっかりお仕事モードの出で立ちになった流星さまは、にこにこ顔でとんでもないことを口にしてくれた。
何て本能に忠実なのかしら。
仕上げのエプロンを身に付けつつ苦笑したら、彼はいきなりわたしの目線まで屈んだ。
「俺はね、未結。"セックスがしたい"んじゃねーの。"『未結』とセックスがしたい"んだよ。俺未結のことしか抱きたくねーもん」
「……」
流星さまは嘘をつかない。
違う。嘘をつけない。
だから彼の言葉はいつも
まっすぐ心に届くのだ。
「あ、おまえ今一瞬俺のことヤリチンだと思っただろー?顔見りゃ分かんだよ」
「お、おもっへらいれふ…」
『思ってないです』その言葉は両側から頬を引っ張られたせいで不明瞭になってしまった。彼はそれにも屈託なく笑う。
…昨夜の激しさも、これから出勤だというのも、嘘みたいだ。
そんなじゃれあいを楽しんでいる最中。突然、部屋のドアが叩かれる音が響いた。
「…おい流星いつまでやってんだよ」
一定の間隔で響くノック…じゃない。これはドアを蹴っている音と、静かな怒りを含んだ声。
「6時。過ぎてる。俺腹も減ってんだけど」
…そう。我が家にはもう一人、本能に忠実な方がいたのだ。
慌てて時計を見る。いけない。つい夢中になって、制限の時間をとっくに過ぎていた!そしてドアの向こう側の『彼』の怒りの原因は、一番の地雷である空腹。慌てふためいた。
「れっ、麗さますみません!すぐご飯にしま……あっ?」
急いで部屋を出ようと背を向けたわたしを、流星さまは 背後から抱き締めた。まるで、引き留めるように。
「未結」
「流星さま…?」
表情は見て取れなかったけど…。いつになく真剣味を帯びた、低い声だった。
「俺、昨夜のこと一生忘れねーわ」
わたしがその言葉の重みを知るのは、まだずっと先の話。
今はただ、彼が最後にくれた言葉に舞い上がるだけだった。
「愛してる、未結」