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第13章 【玄関閉めたら二人の世界】

「ん?なに?」

無意識に、彼の名が口をついていたようで。聞き返され慌てて首を振った。

「さーてと。風呂入ろーぜ、風呂」
「…あ、はい!」

乱れた衣服を整えてくれる彼に身を委ねながら、その誘いを受けた。出掛ける前に準備して保温しておいたから、すぐ入れる。
体はだいぶ平静を取り戻していて、彼の手を借りながらゆっくりと立ち上がろうとすると、突然流星さまが間延びした声をあげた。

「なに、お前いたの?麗」

彼は普段通りの口調。片やわたしは頭から氷水をぶっかけられた心境だ。恐る恐る振り返った先には…丁度お部屋から出てきた…麗さまがいた。

「え…あ!?う、嘘…!?」
「お前今夜泊まりなんじゃねーの」

パニックに陥るわたしに構うことなく、流星さまは続ける。…麗さまは…拍子抜けするくらい冷静だった。

「先方の都合でキャンセル。…ってメールしたよね、未結」
「えっ!?す、すみませ…、…あれっ?!」

普段から携帯に無頓着なわたし。慌てて床に投げ出していたバッグを探ったけど…ない。多分、昼間流星さまから電話を受けた後、部屋に置き忘れたんだ…。

「…携帯は携帯してね、本当…に…」

小さな欠伸。…よく見ると麗さまは髪が少し乱れているし、服もシワが寄っている。もしかしたら彼は今まで眠っていたのではないだろうか。
麗さまは一度眠るとなかなか起きない。なら玄関でのことも気付かれていないかもしれない。そんな一筋の希望の光が差した…のは、一瞬だった。

「なー麗聞こえてた?未結の俺が好きって声」
「り…っ!」

その光を遮ったのは…流星さまだ。
自分とわたしが何をしたのか。誇示したくて堪らないのだ。表情を見れば一目瞭然。何て分かりやすい人なの…。
でもわたしも受け入れたのは事実。それは謝罪しなければ…そう思った矢先だった。

「…未結ちゃん、風呂入って来て」

静かな声。でもそれは全てを物語っていた。
彼は知っている。ここであったこと、全て。

「、はい…」

謝るより弁解するより従うのが先。彼の前をぎこちなく横切り、洗面所に入った。

「あー未結、俺も」
「流星」

振り向き様にドアが閉められて。廊下に居る彼らから遮断されたわたしには、麗さまが発した最後の言葉も、彼が刺すような眼をしていた事も、分からなかった。

「次はねぇからな」
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