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想い想われ歪なカタチ
第8章 8
その日はとてつもなく天気のいい日だった。
昨日までの雨や嵐が嘘のように、うっすらと水色に光る空が頭上をどこまでも広がっている。
形の見えない太陽は強烈な光を放って、ぽかぽかと暖かい温度を提供する。

『俺の部屋を掃除しとけ』
という流牙の命令に馬鹿正直に従ったわけじゃないけど、
特に他にすることもなかった私は、
はたきを手に流牙の部屋の中にいた。

流牙の部屋――といっても、この部屋、元々は私のパパの部屋だ。
凡そ30畳の大部屋の、家具やそのレイアウトは
パパが使用していたときと殆ど変わっていない。
変更点といえば、以前は無かったPCが増えているってことと、
PCの乗っかっているずっしりとした大きなデスクの後ろに
新しく本棚が設置されていて、何やら小難しい書籍が並んでいることだった。

私は手にしたはたきで、部屋の二三箇所をパタパタと叩いてみたけど
すぐに飽きて、はたきをぽいと投げ出した。
流牙の仕事場になり得る机に向かう。
机の上は綺麗に整理されていて、目新しいようなものは何もない。
引き出しには鍵がかかっていて、PCはIDとパスワード無しには立ち上がらないという徹底ぶり。
面白くとも何ともない。

スリムでシャープなデザインの液晶ディスプレイが置かれた机の向かいの
濃い茶色の革張りのどっしりとした椅子に腰掛けてみる。
大企業の社長室にでも置いてありそうなこの立派な椅子は、
皮で張った肘掛の裏の支えの木の部分にもちょっとした彫刻が施されていて
年季こそ入っているものの、それが返ってプレミアとなるぐらい贅沢な一品だった。

そこに座って無感動に部屋を眺めると、
高い天井のため、決して幅が狭くはないのだが細長くみえる窓から
柔らかに落ちてくる日の光と、その発生源のどこまでも水色に輝く空が眼に入る。
私は行儀悪いことを意識しながら、その椅子に深々と腰掛けたまま、
すらりとした長い両脚を、すとんとデスクの上に投げ出して、
眩しさのため目を細め、しばらくその水色の空に意識を飛ばした。
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