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LaundryHeavenly.
第12章 Heavenly.12
「…ん…っ」
「まっずいよねぇ、これ」
反射的に閉じた瞼の先で彼の声がした。
自分も『現役』の頃に飲んでいた、と。
違和を覚えずはにいられない。
これは避妊の為のものだったはず…
私の視界より早く答えは明かされた。
「感染症予防の効果もあるから」
その声と共に口に入れられた水差しは
苦味を喉に流し込んでいった。
不快な後味を色濃く残しながら。
「これは総監が若い頃開発したの。ナノ母と姉も飲まされててね。姉は大丈夫だったんだけど…ナノ母は副作用が酷くてね。耐えきれなくて黙って飲むの止めた途端にナノを身籠ったらしいから。すっごい効果だよね」
「…」
「救いようのない変態だけど、持ってる技術は確かだからね。あのおっさん」
自分もこのとーり生きてるし、と
同じ水差しを口にしつつ彼は笑う。
それを見て私は、この薬を初めて
服用した日の事を思い出していた。
『貴女の体調は関係ない』
『仕事はしてもらいます』
ナノさ…いや『衛生兵』の言葉。そして今
私の眼前には今日の相手である『謀略兵』
彼は私に敬意を表してくれた。奴隷の私に。
ならばそれに報いれなくてはならないのだ。
体の痛みも心の迷いも何もなかった。
鉛のように重く怠い全身に力を込め
震えも痺れも構わず上体を起こした。
「─っ!」
そして着ているものの前を引きちぎる。
その下の素肌を彼の眼前に晒け出した。
今の私ができる報恩は、これだけです…
「レノちゃん?!」
ハイジさんは水差しを叩き付けるように置くと
何してるのと咎めながら私を再び横にする。
「私を…」
「抱かないよ」
覆い被さる彼を見上げての哀願。
そんなものは瞬時に打ち消された。
彼の一番深い『闇』に触れる事で。
「…違う。抱けないんだよ」
「…?」
「勃たないの」
それが彼の『副作用』だった。
否、余りにも過酷な環境が
そうさせたのかもしれない。
『男』としては使えない。呟いた彼の表情は
彼と出会ってから初めて目にするものだった。
「だけどさ、ほら。この薬のこの苦味を知ってるのは…僕と君だけでしょ」
自分と私だけの『繋がり』
それを持てただけで良いと彼は笑ってくれた。
見慣れた屈託ない笑顔に胸は締め付けられる。
…その直後だった。
部屋の扉がゆっくり開いたのは。
「…今戻った。ハイジ、レノ」