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LaundryHeavenly.
第12章 Heavenly.12
彼がいつも笑顔でいる理由が初めてわかった。
偽りでも笑っていなければ気がふれてしまう。
そんな環境を生き抜いてきたからだったのだ。
「…謀略兵がここまで自分や仲間のこと話すなんて、舌噛み切って自決するレベルだよ」
「……」
「それが素面で出来ちゃうんだからねー。…あの夜締め落としたのも、それが理由さ」
『あの夜』
…それは私が娼婦として迎えた彼との夜。
ハイジさんは本当のことを話してくれた。
『一刻も早くこの女から離れねば危険だ』
あのとき自分の頭の中ではそんな声がした。
それは、仲間やまさに今この場の自分みたく
『素顔』を晒け出してしまいそうだったから。
こんなことは初めてだった。
否。あってはならなかった。
騙し偽り弄び、他人の心に入り込み
全てを思い通りにしていく謀略兵が。
こんなちっぽけで無力な奴隷少女に
自分のことをすべて話したくなった。
残酷で悲しくて…できることならば
二度と触れたくなかった『本当のこと』
それを口に出してしまいそうになった。
『娼婦』それは性的な欲望を満たす存在。
『生きている』悦びを思い出させる存在。
この奴隷少女はそのためにいる。
そのためにもってきたのだから。
だがこの奴隷少女は何かが違う。
『すべて』を受け入れ
『すべて』を包み込み
『すべて』を赦される
その空気を無自覚に纏っていた。
我々が常に渇望していたものを
この奴隷少女は持っていたのだ。
「──ある意味完全に見込み違いだった。うちの人たち、もう君なしじゃいられないもん。なーんで見抜けなかったかなぁ」
失態だよ、と自嘲する彼の表情は
俯いている為伺うことはできない。
徐にポケットをまさぐった彼は
何かを取り出し口に含むと立ち上がる。
私の首の下に腕を滑り込ませた彼は
自分の方にゆっくりと抱き起こすと
上体を屈め身を寄せ私と唇を重ねた。
「!」
直後咥内に広がる強烈な苦味。
これは確か…思い出した記憶を
ハイジさんは肯定してくれた。
「覚えてる?殺精子剤。今日、服用日でしょ」