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LaundryHeavenly.
第14章 Heavenly.14
私は『王子』の姿も顔すらも知らない。
それでもわかる。この男は『王子』だ。
ザリ、とブーツの底を鳴らしながら
男は遠慮の欠片なく足を踏み入れた。
まだ煌々と灯っていた蝋燭は
静かにこちらに向かい来る
招かれざる客を照らし出す。
頭二つ程高い背丈。跳ねた黒髪。銀色の瞳。
一目で高級な物とわかる深紅の軍服は着崩され
隆々と迄はいかなくとも鍛えられた体が覗く。
「……あ…っ」
向かってくる男がまとう
殺伐とした高圧的な空気。
それに捕らわれ恐れをなした私は、
立ち上がり逃げる様に後退った…が
狭い小部屋でそれは無意味。愚かにも
私は自ら壁際に追い詰められてしまった。
男は私の前に立ち塞がり逃げ道を絶つ。
直後顔のすぐ横に掌が打ち付けられた。
「聞こえねぇのか。なんだてめぇは」
「っ、…レノ、です…!ソフナー…です」
低く冷たい声での恫喝。…こわい。
自分の体が震えているのがわかる。
「ソフ…?…あぁ、奴隷か」
「っ!」
強い力で捕まれ、強引に上向かされた顔。
苦悶に満ちる表情を男は無言で見下ろし
吐き捨てるように言ったのだった。
「─違うな。お前、娼婦だろ」
「!」
「あの神父のジジイは客か?」
あの神父。
当然ブライトさんではない。
長年この教会に住まわれ
従事されてきた神父様だ。
身分制度に厳しい方で、奴隷の私とは
目も合わせてくれなかったけれど…
悲しくなんかなかった。それが当然だから。
だからブライトさんの優しさは戸惑ったのだ。
それよりなぜ神父様を知っているのか。
疑問が浮かべど確かめる事は叶わない。
「──ま、丁度いいっちゃいいな」
「っ、ぁぐっ!!」
月の痛みを抱えた腹。男はあろうことか
そこに固く握った拳を撃ち込んだのだ。
何の躊躇いもない強い力で。
私は声にならない声を漏らし、前のめりで
倒れ込む。気絶しなかったのが不思議だ。
男は私を受け止めると、そのまま寝台へ
放りつけた。─まるでごみを捨てる様に。
逃げたくても全身が痛んで動かない。
それどころか呼吸すらままならない。
のしかかられて、両足の間には男の右足。
両手首は顔の横で強く握られ捕らわれて。
恐怖一色で染まった私の瞳の先で
男は…『王子』は、口角を上げた。
「殺った後は犯りてぇんだ」