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LaundryHeavenly.
第14章 Heavenly.14
「!」
ベッドを降りようとしたのか。
王子は足を滑らせ無様に転げ落ちた。
出血し続ける傷を押さえたまま踞り
何事か呟いていたようだったけれど
いつしか俯せに倒れたまま動かなくなった。
「………」
夜は完全に明け、陽の光は
部屋の中を照らし出す。
ぐちゃぐちゃに乱れたシーツは
私の血と王子の血にまみれて。
その上に満身創痍の状態で
呆然と座り込む『奴隷』の私
床に広がる血溜まりに
俯せで倒れ込む『王子だったもの』
全てを失ったあの日から抱いていた
私の中の『思い』が果たされた先。
それはそれはとてつもなく異様な光景だった。
───
「─レノ!」
名前を呼ばれ、我に帰った時
私はぬくもりに包まれていた。
私の名前を呼ぶ低く甘い声は知っている。
ブライトさんだ。彼は私の目の前にいる。
背中に広がるこのぬくもりは人肌のもの。
鼻をつく薬品の香り。これも知っている。
ナノさんだ。彼は私を姉さんと呼び
背後からしっかりと抱き締めている。
「礼拝堂に遺体発見。神父だね」
飄々としたなかにも滲む冷静な声。
これも知っている。ハイジさんだ。
彼は遅れて廊下から顔を覗かせた。
──ああ、逃げられなかった。
私が呆然としている間に、彼らは
ここにたどり着いてしまったのだ。
「…レノ、何があった」
『王子だったもの』
それを一瞥したブライトさんは
私と目線を合わせて問いかけた。
恰も彼と初めて会った日の様に
語りかけるような静かな口調で。
「これはマキアート王子だ。何故ここにいる」
「……」
「何が、あった」
ブライトさんのそれは決して
責めても急かしてもいない。
それなのに言葉が出てこない。
代わりに溢れ出したものは…涙だった。
「…、…は…」
「……」
「ラサ…サラサ…を…殺…たんです…」
嗚咽混じりで不明瞭なうえに
聞かれている意図とは違う返答。
「たし…、私の…サラサ……を…殺…」
しかも私は取り憑かれたように
同じ言葉を繰り返していた。何度も、何度も。
それでも彼らは無言で耳を傾けてくれた。
どれくらいそうしていたのか。
長いようで短い時間だったと思う。
「レノ」
ブライトさんは私の手を握り
一つ息をつき…私に問いかけた。
「サラサは、お前の娘だったんだな」