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LaundryHeavenly.
第3章 Heavenly.3
「あんな紳士風吹かしてるけどね。ブライト、戦地じゃ鬼だから。怖いよー?」
「………」
昼下がりの頃。曇り空の下。
私は『お屋敷だった』場所から少し離れた教会の墓地を訪れていた。
ブライトさんとナノさんは所用のため不在。
ここへはハイジさんが連れてきてくれた。
初対面から思っていたけど
この人は本当に…よく喋る。
「『てめぇコラ、ボケッとしてんじゃねぇぞ』って、僕もナノも何回も殴られてるからね」
「は、はぁ……」
私が知らないブライトさんの一面を話すハイジさんは、ケタケタと楽しそうに笑った。
だからこそ余計に、どんな反応をすればよいかわからなかった。
私は曖昧な返事をすると、俯き、手向けのために摘んできた花の束に目を落とした。
お喋りを聞きながら足を進め、ぽつぽつと並ぶ墓石を通り過ぎて。
辿り着いた先は…真新しい五つの墓石。
それを目にした瞬間膝の力が抜け、その場にへたり込んだ。
ここに……皆がいるのだ。
三つには旦那様と奥様、そして…お嬢様の名前が刻まれていたが
残りの二つは何も書かれていなかった。
「それ、君のご両親だってね。ごめんね、誰に聞いても名前を知ってる人間がいなくて」
「いいえ……っ!」
奴隷の身分なのだから、それが当たり前なのだ。
にも関わらず、こんな立派なお墓を設えられ
しかも旦那様たちと並べて頂けるなんて。
こんなこと、考えられない。
それもこれも、ハイジさん達三人が
教会に掛け合ってくれたおかげだ。
あまりのありがたさに涙が滲んだ。
「ありがとう…ございます…っ、ありがとうござ…っ……」
「いいから。祈ってあげて。大事だったんだよね」
ハイジさんは礼の言葉を繰り返す私の手から花を取ると、真ん中の墓石の前にそっと置いた。
それは他の誰でもない。
お嬢様の、お墓だった。