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LaundryHeavenly.
第3章 Heavenly.3

「なに?聞こえないよ」

雨足が強さを増したらしく、打ち付ける水音はテント内により大きく響く。
それは私の声を掻き消すのには十分だった。

唇の動きで私が返事をしたことを見留めたハイジさんは、小首を傾げそう言った。

私に許された答えは、ひとつ。
私はそれを、もう一度繰り返した。

「本当にー?ありがとう、レノちゃん」

今度は、聞き取れたよう。
ハイジさんは満面の笑みを浮かべながら
顎を捕らえていた手を離すと、そのまま頭を撫でてくれた。

ブライトさんがしてくれる、安心を与えてくれるものとは違う。
ハイジさんのそれは、『よく出来た』犬を主人が褒める時のものによく似ていた。


私に許された答え。即ち
彼…いや『彼ら』が望む答え。

『専属の娼婦になる』

それはもしかしたら、私から"大切なもの"を失わせるかもしれない。
父や、母。何より、お嬢様を裏切ることになるのかもしれない。

でも…

今の私は、彼らの側にいることが最善なのです。
失ったぬくもりは、ぬくもりでしか埋めることはできない。

失ったものは失うことでしか得られない。

彼らの側にいられれば、私は──……

お嬢様──……



「じゃ、早速だけど検分させてもらうね」


沈み始めた私を現実に引き戻したのは、ハイジさんの冷静な言葉。

「……けんぶん?…っ、きゃ…」

耳慣れない言葉。
疑問符を浮かべるまもなく、体が宙に浮いた。
抱き上げられたのだ。

間もなく、すとんと静かに下ろされ座らされたのは、もはや慣れ親しんだ寝台の上。

ハイジさんはその縁に腰かけると、片足を寝台に乗せ私の方に体を寄せた。
寝台はテント側面の帆布に密着するように置かれている。反射的に後ずさった私は、必然的に彼と布に挟まれる格好になった。


「君が実際使い物になるか調べるってこと。色とか形とか感度とかね」
「……!」


娼婦になるということ。

その現実は、逃げ場のない状態で
容赦なく突き付けられた。
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