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LaundryHeavenly.
第6章 Heavenly.6
「──っ!」
「んぅ?!」
それは突然だった。
口づけの最中、添えられていただけのブライトさんの手が、強い力で私の顎を掴んだのだ。
慈しみ、優しさ、穏やかさなど微塵もない。
もう少し力を加えられただけで、
砕かれてしまいそうな強さだった。
甘い世界から一気に叩き落とされた私は
一瞬、何が起きたかわからなかった。
「ぐ…、…が…っ」
「レノ」
痛みより勝っていたのは……恐怖。
今の彼が纏っている空気は、ハイジさんを殴り付けた時と全く同じものだったのだ。
「これが最後だ。答えろ」
鋭い瞳は私を居抜き、
優しさが削がれた低い声は静かに囁いた。
「──専属になる以上、お前も45部隊の一員だ。何処へでも同行してもらう。安全な地なんかない。こんな風に襲われる危険もある。…最悪、死ぬかもしれない。それでも我々と来る覚悟はあるか」
「………!」
「部隊に全てを捧げると誓えるか」
『45部隊ね、ほんとは10人いたんだよ。
4人は死んだ。呆気なかったよ』
ハイジさんの言葉が思い出される。
それを肯定したブライトさんの言葉も。
『死ぬかもしれない』
──覚悟。
『レノ!だーいすきだよ!』
──…お嬢様。
──そう。私は、娼婦になる。
ここまで何度も決めたつもりだった。
覚悟もとっくに決めたつもりだった。
でもまだ何処かで迷いがあったんだ。
ブライトさんはそれを見抜いたのだ。
でも今は違う。
私を拘束する彼の手に、そっと自分の手を重ねた。
骨を砕かんとしていた手の力は緩み
やがて私を解放した。
その跡に、鈍い痛みを残して。
この痛みは、現実。
この痛みは、真実。
──恐れも迷いも、今の私には、無い。
「──誓います」
私の全てが込められた『誓い』
「──ならば我々も全力でお前を守ると誓う」
45部隊長──ブライトさんはそれを信じ
『誓い』で返してくれた。
腰を上げた彼は、寝台に腰かけたままの私の正面に立ち憚ると、片手をそっと私の頭に乗せた。
怖くない。大きくて、優しい手。
この夜、最後に私に与えられたもの。
それは低くて甘くて。私の中に入り込んで
体の内側から安息を与えてくれる、彼の声。
「…汝に幸多からんことを。かくあらせ給え」