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LaundryHeavenly.
第9章 Heavenly.9
「──いつまでそこにいる気だ?レノ」
いよいよ『その時』は訪れた。
専属娼婦となった私の初仕事。
所謂『初客』となる彼は、蝋燭の仄暗い明かりのもと寝台の縁に腰を下ろしこちらを見ている。
「あの…その…、……」
私はといえば。テントに足を踏み入れた彼を入口で正座で迎え入れてから今の今まで、そのままでいた。
咎められ、その視線から逃げるように下を向く。
漂う重い空気。それとは正反対に、私たちの出で立ちは至って軽い。
彼は寝間着のような柔らかな素材の長ズボンに、上半身に至っては…何も身に付けていない。
私は素肌に膝丈のシミーズ一枚だけを纏った姿。
一見すれば、いつでも事に及べる状態。
でも私はそこから一歩も動けずにいた。
格好だけなら『娼婦』そのもの。でも蓋を開けてみれば『奴隷』のまま。遥か上の身分である彼に近づくことが、どうしても憚られていたのだ。
思い起こされるのは『契約』後のこと。
彼らは一旦隣のテントに引き上げた。
こちらのテントにまず現れたのはハイジさん。
このシミーズは他でもない、その時彼がくれたもの。他にも「補足ね」と色々教えてくれた。
私がこの寝台で迎え入れるのは、一晩に一人。
相手が望むことには全て従う。
『がんばってね』
着替えた私の髪をとかしてくれた後、ハイジさんはそう言った。静かな声。いつもの軽い調子はなかった。
がんばってね──そうだ、私は決めたんだ。
でも実際はどう?体が全く言う事を聞かない。
シミーズの裾を握り締めた両手に力がこもる。
「怖いか」
「!」
目の前の彼の、冷静な声が刺さる。
そう、自分でも気づいていた。
動けなかったのは畏れ多さだけじゃない。
ただ、怖かったんだ。
性的な行為は初めてじゃない。
どんな行為も受け入れられる。
失くすものなんてなにもない。
全てを捧げると誓いもたてた。
できると思ってた。
やらなければとも。
でも──ああ。怖い。怖い。怖い。
気付いてしまったらもう止まらない。
「レノ」
呼ばれても顔を上げることすら叶わない。
体が小刻みに震え始めているのがわかる。
「──レノ!」
「!」
語気が強さを増した。恐る恐る見上げた先に居たのは、苛立ちに満ちた彼……ではなかった。
「──おいで」
常に私を気遣ってくれる、優しい彼だった。