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LaundryHeavenly.
第9章 Heavenly.9
「座って」
近づいた私に、彼は自分の隣を指して言った。命じる…というよりも、促す。そんな口調だった。
「…しっ、しつ、失礼します…」
おずおずと腰を下ろしたのは、彼の右手側。隣は隣でも30センチほど離れた位置だ。
固く握ったままの両手は膝の上。全身は緊張で凝り固まり、相変わらず動けない。…どうしよう。ああ、こんなことじゃ駄目なのに。
あんなに懇願して娼婦になったのに。
昨夜の勢いは何処に行ったの?
このままじゃ私はお払い箱に──
ふと、視界の隅で何かが動いた。彼の足だ。
より寛ぐように開かれたそれに目をやる。
「……」
彼の膝の位置は、私の膝よりも遥かに高い。
私の視線はそこから腿、腕へと上っていく。
自ずと顔も上がって、眼前には彼の二の腕。
意識したことがなかった。
私たち、こんなに身長差があったんだ…。
そう言えば抱き寄せられたとき私はいつも、彼の胸にすっぽり収まっていたんだっけ…。
その再認識が勝り、愚かにも彼の体を凝てしまっている無礼は全く失念してしまっていた。視線はいつの間にか上り詰め、やがて──
「レノ」
「!っあ…!」
こちらを見下ろす彼と目があってしまった。我に帰った私は即座に視線をずらし、下を向く。
幸い彼は特別不機嫌でも怒っている感じでもない。(もしかしたら私が見入っていたことにも気付いていないかもしれない…)蝋燭の明かりだけが頼りの薄暗い中でも、それは見て取れた。
それでも私の心臓は激しく高鳴る。
どうしよう。謝らなくちゃ。早く。ああ。それより早く彼と。早く。動かなきゃ。でも。ああ。怖い。
頭の中もぐちゃぐちゃだ。俯いたまま、また動けなくなってしまった。
そんな私に、彼は距離を保ったまま、少しだけ顔を傾けて問いかけてきた。
「俺が怖い?」
「ぇっ?!」
がんじがらめになっていた思考を断ち切ったその言葉。…怖い?『彼』が?それに…今…『俺』??
「昨夜も。怖がらせただろう」
「……あ…」
昨夜。誓い の時のことを言っているのだろう。
あのときの彼は殺気すら纏い、確かに恐ろしかった。この人はいつでも私を壊せる。それを改めて認識させられた瞬間でもあった。
でも今は違う。…確かに、全く無いと言えば嘘になるかもしれない。
でも私は『彼』が怖いのじゃない。『行為そのもの』に恐れをなしているのだから。