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LaundryHeavenly.
第11章 Heavenly.11
「──ん、──さん」
遠くから静かな声が聞こえる。
誰だろう。聞き覚えがある声。
…瞼が重い。目は覚めてるのに。
…体も重い。指一本動かせない。
この感じも覚えがある。お屋敷が襲撃され、助け出された私が、目を覚ましたあの時と同じ…
「──娼婦さん!」
「!!」
まどろみを一瞬で打ち砕く強い声。重かったはずの瞼は反射的に開き、声の主を捉えた。
霞んだ視界の先には…私の顔を覗き込むナノさんの姿。これもあの時と同じだ。違うのは…彼が眉間に皺を寄せた、険しい顔をしていたことだった。
「いつまで寝てるんですか」
「…ぇ…?」
「もう午後ですよ」
「え?!」
彼のその表情の理由は、私が飛び起きるには十分だった。彼の背後、開け放たれたテントの入口からは、太陽の光に照らされる外の景色が見えた。
「すっ…すみませ……っきゃあっ!」
慌てて寝台から降りようとした足に掛布が絡まり、私は派手に転がり落ちてしまった。
「…何やってるんですか」
心底呆れたように言いながらも、彼は私を掛布から解き、更に体に前開きのシャツを羽織らせてくれた。今の私は昨夜のまま。半裸状態だったのだ。
「ありがとうございま……!」
──『眠らせてあげる』
甦った記憶。確かに悪夢には魘されなかった。
でも首を締め上げる硬い腕の感触。頭を押さえ付ける強い力。落ちていく冷たさ。恐怖。
ハイジさんは私を危険だと言った。なぜ?…わからない。早まる鼓動、浅くなる呼吸。柔らかなシャツにすがりつくように、私は自分の体を抱き締め身を縮こませた。
「…急に起き上がるのは本当に危ないんです。今みたく転倒したり、内臓にも負担……」
彼は私の様子がおかしいと気付いたらしい。
足早に近づいた彼は、私の横に屈み込んだ。
「具合、悪いですか」
「え…、あ…」
「…今の時点で副作用が出ていないので、昨日の殺精子薬は体に合ったんですね」
触ります、と断りを入れ。彼の掌が額に当てられた。ふわりと香る消毒薬のにおい。反対側の手は私の手首をそっと押さえる。
彼の…多少骨張ってはいるもののしなやかな長い指は、明らかに他の二人とは違う。違う意味で、鼓動が早まった。
「…脈拍は少し早いですけど、熱もない」
直後に呟かれた声は、私の聞き間違いだったのだろうか。ううん、確かに聞こえた。
「よかった」と。