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LaundryHeavenly.
第12章 Heavenly.12
「…レノちゃん」
どのくらいの時間が経ったのか。
ふと私は我に帰った。
霞む視界の先にはハイジさんの姿。
普段の笑顔も軽妙な雰囲気もない。
「よかった。起きてくれて」
感情の籠らない静かな口調。
こちらに手を伸ばした彼は
私の額から何かを取り去る。
それが濡らしたタオルだと分かったのは
額にひんやりとした感覚が広がってから。
ハイジさんは絞り直し乗せてくれたのだ。
「──う!」
横たわらせられていた身体は
少し動いただけで激痛が走る。
それもそのはずだ。
中身は子供だったかもしれなくても
外見は兵士の肉体と力を持った青年。
そんなナノさんから、容赦のない殴打を
あれだけ何度も何度も喰らわされたのだ。
ひきつる舌を動かして触れた歯列。
欠けがないのが全く奇跡に思える。
「丸一日寝てたんだよ」
ハイジさんの言葉も頷けるものだった。
いくら丈夫なだけが取り柄だとしても
体力も気力も限界を越えていたから…。
「……?」
少しずつ晴れていく視界。ある事に気づく。
景色が違った。ここはあのテントじゃない。
石壁が囲う四方。天井は板。…建物の中?
背に感じるテントの寝台とは異なる固さ。
…ベッドに寝かされているようだけれど…
様子を伺う視線に気づいたハイジさんは
その疑問に答えてくれた。
「ここ、教会。ここの方が休めるかなって」
いつか彼と訪ねたお嬢様達が眠る墓地
隣接する小さな教会。そこの小部屋を
間借りしたと彼は言った。私の為にと。
「だいぶ派手にやられちゃったしね」
その言葉にハッとした。
「!…の…、ナノさ…は…」
所謂『スイッチが入った』状態だった彼。
あのまま眠りに落ちた後はどうなったか。
「んー?…今はブライトとお出かけ」
ハイジさんはベッド脇の椅子に腰掛けると
やっと彼らしい笑顔を見せながら言った。
ああ…ブライトさんが保護してくれたなら
安心だし心配はないはず…安堵できた。
「…大丈夫…ですね…」
「うん。死んではないよ」
「……」
恐らく私の意図とは違う
物騒な答えが帰ってきた。
言葉に詰まる私に構わず
彼は続けた。声を潜めて。
「久々に鬼になったブライト見たよ」
震えた、と話す表情は真剣だった。
ナノはやり過ぎたのだと。
「全てに従えったって限度あるのさ」