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ひととせの自由
第2章 すこやかパンダクリニック


「そうだ。光太ろ…いやオーナー。あの子ダメだよ」

デスクから引き出した安っぽ…いやいや、年季を感じる椅子に腰を下ろし、だらしなくもたれ掛かりながら。四季先生は話し始めた。

「今の娘、ミヨちゃんだよね?うちの奥さんの店の」

これでしょ?と。さっきまでいじっていたスマホを先生に向けながら、河村さんが応える。
チラ見できた画面には、半裸の女性が片手で顔を隠し、セクシーポーズをキメた写真。

…明らかに、『そーゆーお店』のもの…だよねこれは。
さっきのお姉さんはやっぱり、プロの方だったのか。
うーん。ギャラリーが居てもヤリきるなんて、プロ中のプロじゃん…って、あれ?ああいう方々って、ヤッて良いんだっけ??

なんて、私が一人で悶々としている間も会話は続いた。


「そ。彼女今日まで休業してたんだけどね。その間に“お薬“覚えちゃったみたいだよ」
「やっぱりね。目、おかしかったもん」
「この間の堕胎が結構キたみたい。今日も、復帰の可否診るために呼んだのに、来た早々キメセク持ちかけてきたんだよね。あれ絶対客にもやるよ」
「うわ困るなー。あの子まだ借金残ってるのに」
「店潰されちゃったら元も子もないでしょー。奥さん可哀想だよ」


──あ、私いま、透明。このお二人、完全に私が見えてない。そんな感じの会話と雰囲気だった。

そ、そか…。あのお姉さんは『ふつうの人』じゃなかったのか…。そして河村さんは既婚者なのね。確かに左手薬指に指輪してたっけ…。ん?奥さんの店ってことは奥さんは『そーゆーお店』のお方ってこと??なんかすごい夫婦…


「だね。仕方ないや。大富豪サマのとこ行ってもらうよ。俺、奥さん困らせるやつ嫌いだし」


ここで空気が変わった。


「ジャンキーでも愛玩用くらいにはなるから」


河村さん自体には何の変化もない。口調も声色も、何なら笑顔も。ただ、空気が変わった。


──某国の大富豪に愛玩用として売り飛ばしてたよ。

車の中で言われたセリフ。あれは冗談じゃない。ガチ。この人にはそれが出来ちゃうのを物語る空気。


「血ゲロ吐くまで叩き込まれたからね。“薬はNG“って」
「前オーナーね。偉いよね、守って。──ま、借りたものは返さなきゃ。ね、“ひととせ“さん」


にこ。とこちらに向かい微笑む四季先生。…名乗ってないのになんで下の名前知ってるの?この人も怖いよ…
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