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ひととせの自由
第4章 のべつまくなし

「あと5分くらいで着くって」

用事が済んだスマホを懐に仕舞いながら、河村さんは私に向かって笑顔で告げた。

「ぇ、ああっ、患者さん、ですね!」

いきなり振られたから一瞬分かんなかったけど。今夜私がここにいる理由を思い出し、わかりましたと返す。


「えっと…どんな方でどんな症状なのかはお伺いしても…」
「あーゴメンゴメン言ってなかった?んーとね、君が来る前にココでちょっと顔いじった男の子。メンテのために来んの」
「ぇ」


現在時刻、23時5分。
こんな時間にこんな場所に整形後のメンテに来る、男子。
しかもこの、河村さんが連れてきた子。
どう考えてもその筋の方のニオイしかしません。本当にありがとうございました。


「ちょっと特殊な仕事してる子でさぁ。人目に付くのあんまり好ましくないから、この時間なわけ」


ちょっと待ってよなにそれもう決まりじゃん。
何やってる…ていうか、何やった 人だろう…?

人の道踏み外して、お天道様の下歩けなくなって顔を変えた、修羅の道に生きる人だろうか。
なんて、ひとりで益々戦々恐々としていたら…廊下から足音が!!そしてその足音の主は…処置室のドアを、ゆっくりと開けた!


「…いらっしゃいました」


…田中くんだったよ。いや、あんな話(この人の過去とか)聞いちゃった後だから、私の戦々恐々はまだ継続中。決して拍子抜けはできない。


「はよざいまーっす、オーナー」


しかし。その田中くんの背後から現れた『患者』さんを目の当たりにした瞬間、私の中の緊張とかビビりとか戦々恐々としたアレとかコレとかソレとかは、みんなフッ飛んだ。


黒縁メガネと目深に被った黒い帽子を外した下からは…整ったお顔の美青年が現わ… れっ、って、ちょ、ちょっ、ちょっとまっ、待って???


「おつかれー、なおくん」


河村さんが笑顔で迎え入れた、『なおくん』。


う、う、う、うそでしょ???この人……

木10ドラマ俳優の……暦 直史(こよみ なおふみ)だあぁぁ?!!
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