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ひととせの自由
第4章 のべつまくなし
「ねぇねぇ、もしかしてひととせちゃん、なおくんのファン?」
傍の丸椅子に腰掛け、スマホかまってた河村さんからの声。
それはまるで『金返し終わるまで死なせねぇよ』とでも言うかのような絶妙なタイミングだった(考えすぎか)。
「は、はい!そーなんです!あ、annus時代から大好きで、あの、ドラマも格好良くて、いつも見てて…っ!」
「…そーなの?それはどーも」
横たわっていたなおくんは、急に上体を起こした。
…ベッドを降りようとしてる?いやいや待って待って、いきなりの体勢移動は体に負担が大きいのよ!点滴中だし、ましてや頭に謎の注射(こわい)打った後なんだから!!
「っ、と」
「危ない!」
案の定、なおくんはグラついて前のめりに倒れかけた。ほら、言わんこっちゃない(言ってないけど)!
反射的に腕が伸び…なおくんの体を支えてしまった。
うあああああ全世界のなおくんファンの皆さんごめんなさいありがとうございます。私今、なおくんを胸の中に抱き留めちゃってます幸せ。仕事なので許してください時間よ止まれ。
「悪かったわね」
「へ?」
ぶっきらぼうに言いながら、なおくんは私の手をゆっくり払い退けると、ベッド縁に腰かけ直した。
あぁ、点滴姿も画になる。写真撮りたい。ラミネートして天井に貼りたい。
「まさかこんなトコにファンがいるなんてねー。ま、たった今失くしちゃったけどー」
「…!?」
幻滅したでしょ。と自嘲気味になおくんは言った。
「……」
──目の前にいるのは私の『推し』。なおくんである。
しかし、俳優の『暦 直史』くんではない。
四季先生の実弟『四季 正直』くんだ。
本当の『なおくん』は、見た目は男。
しかし中身は女の子(しかも毒舌系)だった。
そんな彼の真の姿、誰が想像出来ただろうか。
…でもなぁ。
「ぃ、いや、た、確かに驚きはしましたけども…」
不思議と嫌じゃないんだよな。まして幻滅なんかしてない。
だって
「"なおくん"は"なおくん"なんで…。変わんないですよ…」
──と思ってしまう私は偽善者なのか。はたまた
表面しか見てない浅っさい人間でしかないのか。
答えはここに居る誰からも貰えなかった。