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ひととせの自由
第5章 Ghost White
「すっごいね、もう見付けたんだ。さすがオーナー」
「全然遅いよ二週間かかったし。あの人なら二日で捕まえてる。ってかそもそも逃がさないしね」
「前オーナー?まぁあの人はほら、色々アレだったから」
四季先生と河村さんの会話なんか頭に入ってこない。
目の前…いや、目の下に転がった蓮哉に釘付けだ。
蓮哉は…リンチでもされたんだろうか。
着ているシャツは血痕で模様付けされちゃってる上に、破けまくってもはやボロ雑巾。いつもワックスでキメてた髪はぐちゃぐちゃ。所々頭皮も見える。
唯一の取り柄(だよ、ホントに。なかなか離れられなかったのもこれが理由…今はどうでもいいか)だった整ったお顔は、左目の周りにでっかい青アザを作り、頬も腫れて。傷だらけの口元には猿轡を噛まされていた。
「~!~~!!」
それまでぐったりしていたのに、私と目があった瞬間。
蓮哉はフライパンで熱せられたエビみたく全身を跳ねさせ、声にならぬ声をあげて喚いた。多分…助けを求めてる的なやつ。
「あれ、まだそんな元気あった?田中くんゴメン、黙らせて」
「承知しました、オーナー」
河村さんの指示に素直に従った田中くんは…田中くんは…、なんの躊躇いも迷いもなく、蓮哉の鳩尾に蹴りを入れた。
「ッッ!!」
──痛った!!私が反射的に目を閉じてしまったのとほぼ同時に、くぐもった呻き声が耳に刺さる。次に目を開けて見たときの蓮哉は、身体を『く』の字に丸め小刻みに震えていた。
え…ちょ…なに?なんなの?この状況…こわい…
普通に考えたら、逃げた債務者がとっ捕まった図…だけど。
蓮哉の場合は連帯保証人の私がいて、既に返済のために働いてる。今更主債務者の蓮哉を探し出したところで、こやつに回収できる貯金も能力も無さそうなんだけれども…
「まったくさぁ。聞いてよせんせー。借りたもん返さずにトんだ挙句、逃げ込んだ先のおねーさんと組んで、プッシャーの真似事してたんだよ?この坊や」
「うわ。オーナーの地雷踏み抜いちゃったね」
「そ。クスリ、ダメ、ゼッタイ。…血ゲロ吐くまで叩き込まれたからね、俺」
理解した。金の貸し借りの話じゃないんだ。
今の河村さんは……怒っている。
蓮哉、やらかしちゃったんだ!
そして思い出した。ここ『すこやかパンダクリニック』は、怖い人の息がかかった、怖いところだって。