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ひととせの自由
第6章 熊猫首領。
「アレは撮ってないよー」
恐らくこの『すこやかパンダクリニック』に来て初めて、四季先生のお言葉で安堵した瞬間だった。
「撮ったのは僕と田中くんの場面だけ」
安心してね、と。先生はにこっ☆と可愛らしく微笑んだくらいにして。薄ら寒さと胸きゅんを感じてしまう自分に呆れつつも、とりあえずは一安心である。
「だって僕に全くメリットないもん。キミ出したらその分はキミの借金返済に充てられちゃうしさ。田中は僕分としてカウントされるから全然いいけど」
・・・ねえやっぱりこの先生鬼なんじゃない?
いや違うか。悪魔だ。昔なんかのマンガで読んだぞ!
悪魔は綺麗な顔してるって!あれは真実だったのだ!
「綺麗な顔の男ってこわいよね」
ほら見ろ!河村さんが肯定してくれた。…って、また私心読まれたよ。いや、顔に出てたか…
「有無を言わさず従わせる 空気 あるもん」
怖かったなぁ。と。河村さんは動画チェックしながら(真面目だな)ぽつりと漏らした。
?河村さん、何言ってんだろ。
この人は私たちの借金の貸主。この『すこやかパンダクリニック』オーナー。主従の『主』だ。
いくら綺麗な顔の男が怖いったって、四季先生は『従』の立場なんだから、自分の方が強いのに。
「よっぽどだったんだね、前オーナー」
「うん。ぶっ飛んでた。…でも俺もうちの奥さんもめちゃくちゃ世話になったから、感謝もしてるよ。だからもしあの人が裸で縛られて目の前に転がされてても、俺多分何もできないよ。むしろ縄解くかも」
「あの人結局どうなったの?光太郎くん」
「…"村上さん"はもういないよ。それだけ」
またしても二人の世界に入り込む闇医者とオーナー。
だけど今度はいささか空気が違うような気がした。
会話の内容は私にゃよくわかんなかったけど。
「言うじゃん、親子は一世夫婦は二世主従は三世。…主従関係って根深いんだよ、せんせー」
「現に今も囚われちゃってるしね」
「そーゆーこと」
我らがすこやかパンダクリニックオーナー、河村さん。
私たちの『主』。
…驚いた。かつてはこのお人も『従』の立場だったのだ。