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メンズミーティング
第9章 ひとのふりみて。2
「今日二人でお買い物に行って、これ!買っちゃったんです!!」
あと10㎝ずれてたら野郎の顎直撃してたよ(全然いいけど。て言うかむしろやって)ってぐらいの勢いで、彼女は『それ』を高々と振り上げ見せてくれた。
たい焼き器。
アルミ?製で、魚型の溝に生地を流し込み挟み焼けば、一度で二匹のたい焼きが作れる代物。
「…すごいね」
彼女はたい焼きが大好物。
『なに食べたい?』て聞けば大抵
『たい焼き』と返ってくる。
でもまさか自分で作っちゃうくらい好きだったとはね。ちょっと驚いた。
「面白れーよな。たい焼きなんか買って食うもんだと思ってたわ。あ、俺いらねーから」
あれだけの大騒ぎが嘘みたく平静に戻った野郎は、興味を無くしたらしく頭を掻きながら出て行った。要らんのはいいからもう少し言い方を考えろボンクラ。
「上手にできたんです!召し上がって下さい」
意外にも彼女は傷ついた様子もなく(慣れちゃった?)皿を差し出してくれた。
確かに一匹は上手くできてる(さすが)
美味そう。形も整っているし(さすが)
店頭のやつにも見劣りしない(さすが)
片やもう一匹はあんこが派手にはみ出していた。ちょっと欲張っちゃったのかな。かわいいな。苦笑しかけた瞬間だった。
『腹になんか黒いもん持ってるし』
あの言葉が痛烈に甦ってきた。
そこで変なこと思ったんだよね。
ああ、なんかこいつ俺みてぇだなって。
腹ん中の黒いもんがはみ出して見えて。
"持ち上げ利益ちらつかせ取り入り、中から喰い散らかしていくのがお約束"
自分じゃ完璧だなんて思っていたけど
まだまだ全然達してなかったんだって。
余裕で感じ取れる次元だったんだって。
「…駄目じゃん」
突きつけられら自分の未熟さ。
反吐が出そうになった。
「…え」
「!」
彼女の顔からさっきまでの笑顔が消え失せ
一瞬で不安げな曇り顔になってしまった。
違う違う、君のことじゃないんだよ。
駄目なのは思い上がってた馬鹿な俺。
基本自分を省みたりはあまりしない。
こんな馬鹿げたことだって考えない。
彼女といると救われるが調子も狂う。
「ごめんね、なんでもない」
言葉を濁しながら手に取ったのは
勿論あんこがはみ出したたい焼き。
「──いただきます」
落ちていた気分と思い上がってた自分を
喰い殺すように。俺はその腹に噛り付いた。