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メンズミーティング
第19章 歪愛 [ イビツアイ ]
「流一朗さんを私にください」
見たことがないほど綺麗なその女の人はそう言って
見たことがないほどの札束を差し出し、頭を下げた。
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社会的弱者や低所得者の吹き溜まり。なんならスラム街って言っちゃった方がしっくりくる狭く古く小汚い集合住宅。そこの一部屋が僕の生家だった。
18歳の中卒建設現場作業員と20歳のホステス。そんな二人の間に誕生したのが僕。以後数年。父に夢中だった母はとにかく飽きられないように、捨てられないように、尽くして尽くして尽くしまくった。どんなに理不尽な扱いを受けても、暴力を振るわれても、それこそ、余所の女に現を抜かされても。
今までだって、愛人だという女が乗り込んできたことは何度もあった。「お姉ちゃんと遊びに行こう」と連れ出されたこともある。その度に母は笑って許し、父を優しく受け入れた。だから父は必ず帰ってきた。その代わり母のやり場のない怒りや嫉妬は全部僕にぶつけられていたけれど。
今回もどうせそうなるんだろう。そう思っていた。
僕も、僕の隣に座っていた母も。
この生活そのものに終止符が打たれるとも知らず。
「私のお腹には流一朗さんの子供がいます」
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有栖川沙羅(さら)。女性はそう名乗った。
素性を聞けば、こんな狭く古く小汚い部屋にはとても相応しくない…というか、こんな場所が存在すること自体知らなさそうな、絵に描いたような『お嬢様』だった。
そんな人種が一体なぜ父のような粗野な男と出会い、深い仲になったのか。これだけは未だにわからない。
とにもかくにも彼女は僕の父を…流一朗さんを愛している。結婚したい。自分は一人娘なので彼には婿養子に入ってもらう。慰謝料も養育費も言い値を一括で支払う。だから身を引いて欲しい。今思えば美しく涼しい顔で、恐ろしいほど勝手な要求を述べた。
流石に母も怒り狂い、彼女の頬を殴りつけると髪を掴んで部屋から引きずり出した。泥棒猫が何を抜かす、ガキなんて知るか、消えろ、と怒鳴り散らして。
夜に帰宅した流一朗さんから
全く同じことをされるとも知らず。