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メンズミーティング
第19章 歪愛 [ イビツアイ ]
かくして、父と母は離婚した。
短気は損気。沙羅さんに手を挙げてしまったのは失敗だった。案の定診断書を取られ、訴える、慰謝料を請求すると突きつけられたのだ。お約束のように「離婚すれば取り下げる」との条件付きで。無知で、男に縋るしか能のない場末のスナックホステスに選択肢はなかった。
始まった母一人子一人の暮らし。金銭的な不安はなくなったが、ある意味の『心の拠り所』を失った母は酒に溺れた。
朝から呑み昼間も呑み勤め先でも呑み。「なんであんたがいるのに流一朗はいないの」事ある事にそう言われ、困った覚えがある。ママより沙羅さんを選んだからだなんて、言えないからね。
それを一番わかってるのがこの人なんだから。お腹を痛めた息子でも、僕じゃ駄目なんだもんね、お母さん。
そんな時、あの─うちに初めて沙羅さんが来た─日に沙羅さんのお腹にいた子供が流れたと、風の噂で知った。
母は狂ったように笑った。「ざまあみろ」と。それを見て思った。ああ、この人本当に壊れたんだって。
──────
そんな母が長生きするわけなく。肝臓をやられ、あっという間に死んでしまった。
当時僕は11歳。他に身内らしい身内もなかったから、施設に送られることはほぼほぼ決まっていた。仕方ない、それでも今までの生活よりはマシだ。
しかしそこで意外な人物が手を差し伸べた。──沙羅さんだった。
「施設よりも実父といた方が幸せなはず」あの頃と変わらない頭お花畑な思考だったけど、彼女の本心だったらしい。
いやもしかしたら、彼女なりの『罪滅ぼし』だったのかもしれないね。
紆余曲折を経て、住処はスラムから都心の高級住宅地へ。貧しいシンママの息子から、名家有栖川家の長男として。ある意味華麗なる転身を遂げたわけだ。
─────────
再会した流一朗さんは見違えた。記憶に残っているのは汚れた作業着姿。そんな面影は微塵もなかった。身に付けているものは軒並み高級品になっていたし、大企業の社長様相応の威圧感を纏わせていた。
変わらなかったのは我が道まっしぐらの『俺様』気質。久々の対面だというのに「元気だったか」の一言もなく、僕に視線を向けることすらしなかった。
沙羅さんが僕らの家庭を壊してまで手に入れた流一朗さん。しかしその結婚生活は決して幸せなものではなかったらしい。
沙羅さんと──僕の異母弟、流星を見ればわかった。