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メンズミーティング
第19章 歪愛 [ イビツアイ ]
「有栖川先生!お願いします!」
それから数年。僕は救急外科医として都内の総合病院に勤務していた。
ハッキリ言って、激務だった。冗談抜きで休む間もなく次から次へと症状も容態も異なる患者が運ばれてくる。良い結果になる場合もあれば、望まない結果になることもある。『厳しい』環境だった。
しかしそれはある意味で好都合でもあった。経験値はぐんぐんあがっていく。暇がないから余計なことを考えなくて済む。
そして何より、一時は死の淵をさ迷った患者が回復し、見せてくれる笑顔。「ありがとう、先生」その言葉。
自分がようやく『まとも』になれていく気がした。──嬉しかった。ようやく『人間』になれるのだと。ようやく『必要』とされる場所を見つけたのだと。
その全てが打ち砕かれる日が来るとも知らず無邪気に。
「──は、一時間ほど前に突然倒れ──」
『その日』運ばれてきた急患が目に入った瞬間。
僕の周りだけ世界の全てが止まった。
「お父さん…」
────────
一命は取りとめたものの、父の意識は戻らなかった。
最上階の特別室。だだっ広い部屋の中央に位置するベッド。周りを囲むのはその生命を維持するための装置。
『生きているだけ』の状態になった父を目の当たりにした僕は──笑っていた。それこそあの日、沙羅さんのお腹の子が流れたのを知った母が、狂ったように笑ったのと同じように「ざまあみろ」と。
その時わかった。僕はもうここに居てはいけない。
とっくに『まとも』なんかじゃなかったのだと。
そして僕を『必要』としてくれる──『一番』にしてくれる相手を、ついに手に入れたのだ と。
僕が自宅介護を理由に退職届を出したのは、それから間もなくだった。
────────
「こんな状態で生かしといて何になるんだよ」
今や僕より大きく育った異母弟がそう訴えてきた。維持装置切ろう、お父さんも自分たちも楽になろう って。
黙れ、流星。お前に何がわかるんだ。
お父さんはもう僕なしでは生きられない。散々無視してきた、僕なしではだよ?最高じゃないか。
「お父さんはこのままだよ。いいね、流星」
生かすも殺すも僕次第。その日その時その瞬間。
僕がこの手でこの人に、引導を渡してあげたいんだよ。