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第1章

「橙也くん、起きて。時間だよ」

22時になったのを見計らい寝室を訪れた僕は、僕のベッドを我が物顔で占領し眠りこける、その男に声をかけた。

「ん～…圭吾～…あと5分…」

寝惚けた間抜け声で、今時マンガでも聞かない台詞を返してきたその男…橙也は、布団を道連れに寝返りを打ってこちらに背を向けた。
大の男が猫のように丸まったその姿は、なかなか滑稽だ。つい苦笑してしまう。

「起こせって言ったの、橙也くんでしょ」

ベッドの縁に腰掛け、布団の上から弱い力で体を揺すってやる。

「電車、なくなるよ」

彼の自宅はここから二駅先。しかし勤務先はこの近所だ。繁忙期である今の時期、連日残業続きな彼は帰宅する前によくここに顔を出す。曰く、家まで持たん。寝かせてくれ。と。

「…泊まりてぇ…」
「それはダメ。僕も出掛けるんだから」

体のラインに沿って手を滑らせ、尻を軽く叩いて窘める。会社勤めをしている彼とは違い、僕はフリーランスの身。活動時間は異なるのだ。

橙也とは出会って2年になる。知人を介して知り合い、同じ趣味を持っているということで意気投合した。
とはいえ休日は合わないし、食の好みも映画の好みも何もかも合わない。なので連れ立って外出することはまずない。こうして平日の隙間時間にちょこちょこ顔を合わすのが精々だ。

───そんな僕らの共通の趣味とは。