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BeLoved.【蜜月記】
第13章 そういう男。1

「大丈夫じゃないでしょ」

…あっさり見抜かれ。回れ右をさせられたら、正面には鏡。…あ、だからか…。ファスナーを上げ留めてくれた彼は、そのままそっとノースリーブの肩に両手を添え、鏡を覗き込んだ。

「うん、かわいいよ」
「…あ、ありがとうございま…」
「朝比奈さんの服もいいけど、こっちも似合ってる」

低く甘い声と、香りと、鏡に映る穏和な笑顔にドキドキさせられつつ。
わたしはぽやん、と頬を緩めてしまうのだった。

「けど…珍しいね、こんな短いの」

濃紺のアイライン仕立てを、揃って見下ろした先は。わたしの膝のかなり上で断たれた裾。


「店長さんにお勧めされたのと…色も気に入って」
「うん、夜空みたいで綺麗だね」
「それに、好きそうだな って…」
「誰が?」

それまでののどかな空気は瞬殺された。
鏡の中の彼と視線がぶつかり身がすくむ。
…頬だけじゃなく口も緩くしてしまった!

──『彼』が、好きそう。

この服に惹かれた一番の理由。
絶対内緒にするはずだったのに。…あぁ、もう!ちょっと褒められたくらいで浮かれて、わたしは。

麗さまに変化はない。声にも表情にも。
でも、違う。もう、空気が違う。それは彼にも判ってしまっている証拠。──自分じゃない、って。


「あ…」

謝るのは却って気に障ってしまいそう。まして言い訳なんか火に油。どうしよう…。




「ねえ、あっちはもう着てみたの?」


現状を打破してくれたのは…彼だった。
指差されたのは、ラックに掛かったもう一着。

くすんだピンク色で、膝丈のフレアスカート、腰にはリボンが付いた、それは・・・。


「は、はいっ!すっごく可愛くて…着心地良くて!」

わたしの答えに彼は「そう」と微笑んだ。
空気、戻っ、た…?それとも構え過ぎていたのかな…。

「もしどっちも買うなら、今夜着ていくのはあっちにしてほしいな。今のそれ、露出多くてちょっと心配だから」
「…。はい…っ」

頭を撫でてくれたのは、いつもの優しい彼で。
それが余計にわたしの浅はかさを痛感させて。

「あの…この、これ、は…やっぱりやめます!」

せめて報いたくて。だけど…笑顔で却下された。

「なんで?未結が気に入ったんでしょ?」
「……」

…気にして、ない?大丈夫だったのかな…。


「確かに好きそうだしね。流星が」


全然大丈夫じゃなかった。
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