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BeLoved.【蜜月記】
第13章 そういう男。1

「く、唇に、ですよね?!」

キスは今まで指が触れていた部分に、俺がする。って意味だからね。──なんて後出し、この人ならしかねない。
わたしの念押しに、彼は「もちろん」と苦笑しながら、屈んでいた身を起こした。

そしてわたしの身体の向きを変えさせ、お得意の…壁(今は鏡だけど)と、自分の間にわたしを挟み、閉じ込めたのだった。

「……。……?」

背中にひんやりとした硬さを感じつつ彼を待ったけれど。彼は何故かキスをする体勢はとってこない。
それどころか小首を傾げ尋ねてきたのだ。

「ねえ、まだ?」
「ま…?え?…キスする、って…」
「するって言ったのは、未結だよ」
「!!」

彼の言わんとすること。つまり──『おまえからしろ』。
(そんな言い方は絶対されないけど!)

恥ずかしすぎて無理!瞬間、躊躇ったけど。彼を傷付けてしまったことは事実だし、今度こそ少しでも報いれるなら。そう思い直し意を決した。

しかしそれを早速阻むものがあった。…26cmの身長差だ。

腕に掴まらせてもらって爪先目一杯まで背伸びしても、顔を限界まで上向かせても、キスが交わせるところまで届かない。

「ち、小さくなってください…」
「未結が寄せて」
「〰〰ん・・・もぅ!」

お願いしたところで、この返し。…どうして彼も『彼』も、わたしを恥ずかしがらせるのを好むのか…。

悶々としつつも彼の両肩に両手を添え、再び背伸びをしながらこちらに引き寄せれば。彼からもゆっくり上体を屈めてくれた。…愉しそうに。

「目開けててもいい?」
「〰〰閉じてくださいっ!」

──思い返せば、『わたしから』キスしたことって、あんまり無かったなぁ…。
お互い立ったままだと差がありすぎてやりづらいし、かと言って同じ目線に居る時も、恥ずかしさが勝って、なかなか…。だからまさか、こんな状況で経験することになるなんて。

「…っ…」

瞳を閉じた暗闇の中、唇に拡がったぬくもりは。
柔らかくてあたたかくて……きもちよくて。

「……」

居た堪れないはずのこの状況でも、それは変わらなくて。
──しかも今は『わたしから』キスしてる。いつもみたく彼が自分から屈んでくれて、わたしに合わせてくれてるんじゃない。

わたしが彼を引き寄せて屈ませ、わたしに合わせさせる…わたし主体のもの。
…どうしよう。わたし今、別の意味でドキドキし始めてる。
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