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BeLoved.【蜜月記】
第13章 そういう男。1
おかしいな。
躊躇ってたはずだったのに。
罪滅ぼしのはずだったのに。
名前のわからないドキドキが治まらなくて。
もっと言ってしまえば、治めたくなくて。
わたしは彼の首に両腕を回し、引き寄せるどころか抱き寄せて、キスを続けた。
顔の傾きを変え、唇が触れ合う角度を変えながら、何度も。
「……ん」
…おかしいな…。
躊躇ってたはずだったのに。
罪滅ぼしのはずだったのに。
彼のため、だったはずなのに。
「…未結がきもちよくなっちゃったね」
「…!」
苦笑混じりの静かな声で、図星を突く痛烈な一言。
瞼を開いた先には。
『わたし』が引き寄せ屈ませて、キスをした…麗。
「ね」
「あ…」
射抜いてくる。切れ長で、長い睫毛に縁取られた、赤墨色の瞳が。見抜いてくる。きもちよくなってしまったのが、身体だけじゃないことを。
彼は咎めているんじゃない。むしろ──
「──ねえ、もっとキスしよう?未結」
──愉しんでる。
「…ん!ぅ…」
返事を待たずに、再び拡がった唇のぬくもりは。
『わたしから』のキスが、おしまいを告げる合図。そして
『彼から』のキスが、始まった合図。
「んん…っ」
後頭部に回り込んだ手が、優しい力で押さえ付ける。
そして自分の方に…抱き寄せてくる。きつく。
「…口開けて」
「っ、ぁ…」
条件反射的に従ってしまった、僅かな隙間から。彼の舌はわたしに容易く入り込んだ。…熱く柔らかなそれが絡み、キスの深さが増していく。
「ふ…ぅ、んん…」
あまくておいしくて、とろけるような、彼のそれ。わたしの両腕は、いつしか彼を抱き寄せるのでなく、必死でしがみつくことに役割を変えていた。
「…かわいい、未結」
「あっ…、うぅ…っ」
舌先に甘く立てられた歯。走った痛みも、すぐに絡められた舌が拭い去ってくれて。むしろ、噛まれた部分は鋭敏になって、さっきよりも感度が増してる。…だめ、きもちいい…
「……っ」
頭の芯が溶けていく。お腹の奥が疼く。崩れてしまわないよう、離れないよう、首に回した腕に力が籠る。
彼はわたしのもの──それがなにより、心を満たす。
「着た感じ、いかがですか?」
ドア向こうからの軽いノックと、店長さんの声でハッとして。
彼を癒すためだったはずのキス。
なのに結局癒されたのは、わたし。おかしいなぁ…。