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BeLoved.【蜜月記】
第14章 そういう男。2
…居るんだね。と倖哉さんは小声で呟いた。
「こいつ 俺 の連れなんですけど。な に か?」
わたしの真横に仁王立ちした掌の主は、同じ言葉を繰り返した。一度目より語気を強めて。
「流星……」
…だめだ。威圧感に圧されて口が回らない。
辛うじて見上げた先、彼の視線はわたしでなく倖哉さんを真っ直ぐ見下ろして…というか、睨み付けている。
「昔の知り合いなんすよ。懐かしくて、つい声掛けちゃって」
…すごい。倖哉さんは全く怖気付いてない。
それどころか、にこやかに笑って返してる。
「あぁそーでしたか。てっきり低俗なナンパかと思いまして」
「あはは。なんか、誤解させてすみませんっした」
「いえ、こちらこそ」
「心配っすよね、彼女がこんな可愛いと。わかります」
…切り抜けた。空気がふっと軽くなった。
──ああ、そう、そう。倖哉さんって、こういう人だった。はぐらかすというか、煙に巻くのが上手いというか…そう
『悪者にならずに逃げる』のが上手いんだ。
「それじゃ、オレも連れが近くまで着いたみたいなんで」
ボトムのポケットから取り出したスマホを一瞥し、席を立った倖哉さんは。「元気でね」と笑顔で言い残し、振り向くことなくお店を出ていった。
外に出た倖哉さんには、すぐ女の子が駆け寄ってきた。…彼女かな。そして二人は腕を組み、雨上がりの街へと姿を消した。
一面ガラス張りだから、この席からもそれがよく見えた。
だけどわたしは、なにも感じなかった。