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BeLoved.【蜜月記】
第14章 そういう男。2
「ブチ切れた方が良かった?」
そう問われたのは、ふたりきりになってから。
白玉善哉がお腹におさまった頃。彼に伝票をかっさらわれ(抗議しても返して貰えなかった…)、お店を出て、近場のコインパーキングに停められていた彼の愛車に乗り込んでからだった。
「俺、めちゃくちゃ大人の対応だったろ」
「……。あ、さっきの…」
なんのことかわからなかったけど。
倖哉さんとのやりとりのこと言ってるんだ。
「だからさ、未結的には物足りなかったかな って」
「いゃ…、そんなコトは…」
じゅうぶん……怖かったです。
倖哉さんも一瞬とはいえ怯んでいたし、今のこの屈託ない笑顔からは想像もつかない空気に、圧され死にしそうでした。
…とは流石に言えず、笑ってお茶を濁した。
「でね」
「…!」
シートベルトを締めて、眼鏡をかけて。後はエンジンを掛けるだけ…の所で。何故か彼はこっちを向いた。
…身がすくむ。怖いから、じゃない。流星さまの眼鏡姿は、彼が運転する時にだけ見られる希少(?)なもの。仕事帰りのスーツ姿と相まって様になっていたのと……ノンフレームのレンズ越しに見えた三白眼に、射抜かれたから。
「俺今、おまえのことすげー抱きたいんだけど」
「!!!」
「ぶっちゃけ今もう半勃ち。うち着いたら即襲っていい?」
…眼以上に突き刺さってくる、ストレートすぎる言葉たち。
本当に、この人は、もう!
「なんっ…なに、ナニを言って」
「俺ラブホ嫌いだもん。それにおまえ、玄関でヤんの好きだろ」
「っす、好きくないです!!」
「じゃ、玄関じゃなきゃいい?」
「〰〰・・・」
…ダメだ。何を言っても彼は折れない。
ああ、自分の顔が真っ赤に茹だっていくのが分かる。それはもちろん恥ずかしさからと…求められることへの、喜悦から。
「交渉成立なー」
沈黙を肯定と取ったか。彼は、悪戯が成功した男の子そのものの笑顔を見せ、静かに発車させた。
本当に本当に、この人は、もう…!
「──あ、あの小僧には言っても良かったのか」
「?」
やがて辿り着いたマンションの駐車場。静かになった車内、眼鏡を外しながら徐ろに彼が呟いた。
「Don't touch mine」
「…ぁ」
──俺のものに触るな。
わたしを見る眼はもう…『男の子』じゃない。
痛感した。…しっかりブチ切れていらしたのだ。