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BeLoved.【蜜月記】
第7章 世界はそれを女王様と呼ぶんだぜ
「すっげー」
流星さまがそう言ってしまうのも無理もない。
さっきまで窓ガラス越しに見えた絶景が、眼前に広がっているんだから。圧倒されてあたりまえだ。
わたしだって感動のあまり、ぼーっとしている。…決して今入っているこのお湯が熱いとか、彼の身体に見惚れてるから…とかじゃなく!
「すごい…ですね…」
「なー。これは語彙力吹っ飛ぶわ」
部屋付きの露天風呂は、テラスに、大理石で作られたプールのような湯船が設えられていて。そばにはテーブルに、寝転べる大きさのソファまでセットされている。
自然の中にいる静寂と、温かく柔らかくいい香りのするお湯に包まれて、心地いい。しかも、隣には大好きな人がいる。
なんて贅沢なんだろう…。お湯だけでなく、幸福感にも浸った。…彼も同じ気持ちで居てくれたら、もっと嬉しいんだけどな…
「未結」
「っは、はひ?!」
いきなり現実に引きずり戻され、変な声を上げてしまった。しかし彼は全く意に介することなく、むしろ意外なことを言ってきた。
「ありがとな、色々」
「え…」
「段取りしたり車借りたり宿取ったりさ。全部おまえにやらせちゃったじゃん、俺ら」
「、それは…!」
わたしがやりたかったから。
わたしにやらせてほしかったから。
この旅行はわたしへの『ご褒美』という名目だけど、わたしにとっては彼らへの『御恩返し』であるから。
だから任せて欲しかったんだ。却って気を遣わせてしまったかな…
「でもさ、俺正直ビックリした」
「?」
「未結は俺がいねーと何もできねーと思ってたから」
「なっ…!わた、わたしだって一応社会人なんですから!」
気を遣っていたんじゃない。…ばかにされていた。
「いやー。若葉マークのくせに長距離運転やってのけるは、あんな無茶クソ怖えー運転するくせに予定時間ピッタリに到着するは、疲れた顔も見せないは、なにげに感心もしてんだよ?」
「…もういいです!」
フォローになっていないフォローに追い討ちをかけられ、そっぽを向いて。そのまま湯船の端まで移動し、彼との間に距離を作った。
『何もできないと思ってた』
…わかってはいたけれど、いざ面と向かって言われると、結構キツいものがあるなぁ…。
胸にモヤモヤしたものを感じながら。湯船の縁に組んだ腕を乗せ、突っ伏したのだった。