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BeLoved.【蜜月記】
第9章 赤ずきんと男ども
「…あ、あのぅ…お腹すいてるんでしたら…もしよければこれ、食べてもらえませんか…?」
険しい表情に怖気づきつつも、ミユがおずおずと差し出したのは、おばあさんにおすそ分けするために持ってきた、カレーの鍋でした。
どうせ持ち帰るだけ。ならばお腹を空かせた人に食べてもらった方がいい。そう思ったのです。
「パンもあるので、お嫌いじゃなければ…」
「いいの?ありがとう」
狩人のレイの表情から、険しさがすぅっと消えていきます。それを見たミユはほっとしました。すると今度は、狼(のような)男がとても嬉しそうな大声で叫びました。
「おいレイこれ俺に売れ!」
何事かと見やると、狼(のような)男の手には、荷物の山から見つけ出したらしい、メイド服がありました。
それは、おばあちゃんが娘時代に領主様のお屋敷奉公をしていた時に着ていたもの。
黒いワンピースに、灰色のエプロン。多少の劣化は感じるものの、きちんと手入れをされて保存されていたおかげで、とてもきれいな状態でした。
「今回の紹介料と相殺でいいよ」
「乗った。交渉成立な」
カレーを貪る狩人のレイと、メイド服を片手に掲げる狼(のような)男は、ほんの数分前とはまったく違う、にこやかさです。
男どもの変化についていけないミユは、少し頭を冷やそうと、被りっぱなしだったずきんを取りました。
「!!」
すると、どうしたことでしょう。
男どもの視線が、一気にミユに集中したのです。
「な…なにか?」
ずきんを握りしめ、怖じ気付くミユに、男どもはなぜか次々と質問をしてきます。
「おいバカずきん、おまえいま、仕事なにしてんの?」
「え?い…今は、求職中…で…」
「ねえ、このカレーは君が作ったの?」
「え??…はい…、あっ、お口に合いませんか?」
それからも「賃金はいくらほしいか」「家事は得意か」「家族はいるか」「住み込みは可能か」…などなど、男どもは不思議な質問を繰り返します。
ミユはそのひとつひとつに、バカ正直に答えていきました。賃金にこだわりはない、家事は得意、家族はいない、住み込みは可能…などなど。
そして最後に男どもは、それぞれメイド服と、空になった鍋を持った手をミユに差し出し言い放ちました。
「おまえ、うちでメイドやらねー?この服着て」
「このカレー、毎日作ってくれない?」