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BeLoved.【蜜月記】
第10章 流麗荒亡 2
「ににににいちがに、ににんがし、にさんがな…ろくっ」
ダメだダメだと思うほど、意識してしまうのはなんでだろう。
廊下を歩いているうちから、頭の中は恐怖のシーンを再生し続けてしまっている。〰〰頭洗えるかな、わたし…
辿り着いた脱衣所。指先が電気のスイッチを探り当てた瞬間。
心臓がキューッと締め付けられた。
真っ暗な浴室から、ぴちゃ…ん、と水音がしたのだ。
「……!」
脳内に真っ先に蘇ったのは、映画のあのシーン。
──『ぴちゃん…、ぴちゃん』と水の音がして──
だめだめだめだめこれ以上思い出しちゃだめ!!
大丈夫。音はきっと天井から滴る水滴だから!!
心臓が耳の中にあるみたいに、鼓動がやかましく響く。
ああ、早く明かりをつけなくちゃ。
浴室も洗面所も明るくして、音の正体を確かめなくちゃ。
わかってる。わかってはいるのに……体が動かない!!
硬直した体と心を置き去りに、映画のあのシーンがわたしの目の前で着々と再現されていく。やがて──浴室のドア…磨りガラスの向こうに人影が現れ……ドアを思いっ切り開けた!!
「ぎいゃあああああッッッ!!!」
─────────☙
「え?俺一人風呂だと普段から結構真っ暗にして入るよ?ちょっと考えたい時とか、精神統一したい時とか」
浴室から現れたのは麗、いや霊…じゃない。流星さまだった。
わたしの断末魔(?)の叫びにも全く動じず、普段通りの飄々とした口調で言いながら、濡れた体と髪を払拭している。
「そんっ、そんなっ、知らなっ、なんっ」
「だからなんで半泣きなんだよ。おまえやっぱ訳分かんねーわ、未結」
恐怖でヘタり込んだわたしにも、容赦なく。目の前の彼は心底呆れたような目で見下ろし言い捨て、溜息をついた。
…いや、それはわたしの台詞ですよ。流星さま…
「帰られたんなら!どうして一声かけて下さらないんですか!」
「えーだっておまえTVに超集中してたから邪魔しちゃ悪りーなと思って。俺なりに気ぃ遣ったつもりなんだけど」
「いやいや!むしろ声掛けてくださいっ!」
「やだよ。変に関わったら、前みてーにヘッドバット喰らうかもしんねーじゃん」
抗議も暖簾に腕押し。…いつものことだけど。
部屋着を着込んだ彼は、「ごゆっくりー」と言い残し脱衣所を後にし…ないで下さい!ちょっと待って!!